topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.139
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 皆の霊衣選びが一段落つくと、アスナ達はそれぞれ部屋に戻って霊衣に着替えて戻って来た。いつもならば我関せずの態度を取る事が多い千雨も興味があったのか反対せず、また今夜の見回り当番はシャークティと美空だったので、霊力供給の修行を受ける面々は皆着替える事になったのだ。
「あ、私しっぽを通す穴がないとダメかも……」
「それくらい私がやってやる」
「あ、糸使うなら絹糸使いや。ほら、これ使い」
「そう言うのも関係してんのか……分かった」
 しっぽのあるコレットがそのままで着られるかと言う問題もあったが、そこは千雨がフォローする事で解決した。手早くしっぽを通すための穴を作ってしまう。コスプレ衣装を自作する彼女は、裁縫が得意なのだ。

 そして横島はと言うと、着替えてきたアスナ達を見て顔をほころばせながら可愛い可愛いと連呼している。見た目は薄手とは言え道着であるためお世辞にも可愛いとは言えないデザインだが、この男にとっては着ているのが彼女達であればそれで良いのだろう。アスナ達もそれを承知しており嬉しそうだ。
 いつもならば勉強の時間になっており、その事に気付いたあやかは皆に声を掛けるべきかと周りを見回すが、皆お互いに霊衣を見せ合い賑やかに楽しんでいる。流石にこの状態で頭を切り換えろと言うのは無理な話であろう。
 横島が夜の警備に出発するまであと少しである。勉強を始めるのはそれからでも遅くはあるまい。あやかは頭を撫でられるアスナの照れ臭そうに、それでいて嬉しそうに表情をほころばせる姿を見て、優しげに苦笑するのだった。


 半分微笑ましそうな、もう半分はいやらしそうな目で皆を見ていた横島だったが、その中に今まで霊力供給の修行を受けていなかった刀子達が混じっている事に気付いた。
「そう言えば、なんで刀子さんも? それに千草まで」
「え? あ〜、その、霊衣も使うような本格的な修行なら、私達も受けてみようかな〜って」
「そ、そうなんスか……」
 しどろもどろになりながら答える刀子。確かに筋は通っているので、横島もその返答に納得した。
 その様子を見てほっと胸を撫で下ろす刀子。こっそり千草も同じ様に胸を撫で下ろしていたりする。
 これからの修行において霊衣は確かに重要だ。それだけ霊力の扱いについては本格的な修行になる事は確かであり、また修行としての「格」が上がるのも事実である。それ故に刀子や千草が受けても良いと考えるのにも筋が通っている。
 だが、彼女達の本音がそれだけではないのは先刻承知の通りである。アスナ達は修行を通じてどんどん横島と親密になっていくのに対し、シャークティが監視者と言うスタンスを取っているため、同じ大人である二人は参加する事が出来なかった。シャークティが監視者である事を強いられているように、二人もまた自重する事を強いられていたのである。
 そんな二人が、内心アスナ達を羨ましく思っていたのは言うまでもない。特に監視者であった刀子は顕著である。
 霊衣を使うようになり、修行として箔が付いた今ならば二人も参加する事が出来る。そう言う意味では霊衣の使用は刀子と千草にとって渡りに船であったと言えるだろう。これ以上アスナ達に引き離される訳にはいかないと言う本音を誤魔化す理由付けとして。

「刀子達にはもう言ったけど、次から私は監視しないから」
 据わった目のシャークティが、横島に告げる。彼女自身、これ以上は付き合っていればいずれ自分も引きずり込まれると判断したのだろう。
 彼女と入れ替わる形で千草が参加する事になるので、何か問題が起きた時は刀子と千草の責任である。
「ちゃんと自重しないと……分かってるわね?」
 そして後半は半ば脅しになっていた。ココネの事があるので、釘を刺しておくのを忘れない。
 実際、いつまでもシャークティの監視が必要な内は修行としては未完成だと言える。霊衣を使い本格的なものにしていくつもりならば、一人前の霊能力者、GSとしてしっかり責任を持てと言う事である。

 シャークティの言葉に気を引き締めた横島は、続けてコレット達の方に視線を向けた。こちらも今まで修行に参加していなかった面々なので、きっちり確認しておくためだ。
「それで、コレット達も霊力供給の修行を受けるつもりなのか?」
「は、はい、千雨さん達と同じ基礎修行の方で……ダメですか?」
「いや、そっちなら断る理由はないけど」
 おずおずと上目遣いで尋ねるコレットは黄色の霊衣を身に着けていた。褐色の肌に明るい色合いの霊衣がよく似合っている。
「わ、私も、よろしくお願いします!」
「夏美もか。基礎修行でいいんだよな?」
「はい!」
 そして青色の霊衣に着替えた夏美も修行を受けたいと頼んできた。経絡を開かない基礎修行であればリスクはほとんどないため、横島も可愛い子に頼まれたのならば断る理由がない。
「って、お前らもか?」
 そう言って横島が振り向いた先には赤い霊衣に身を包んだアーニャの姿―――だけでなく、白い霊衣に身を包んだ月詠の姿もあった。
「もちろんよっ!」
「あ、アーニャちゃんはコレットはん達と同じで基礎修行でお願いしますえ〜」
 言葉足らずなアーニャを月詠がフォローする。かく言う彼女はとうに経絡が開いている身なので、アスナ達と同じ修行でも全く問題がない。
「横島はん、ウチもお願いな〜
 続けて木乃香と刹那も白い霊衣を纏って横島の前に現れた。
「なんかせっちゃんが張り切って受けるって言うてるから、ウチも次から受けさせてもらうわ」
「刹那ちゃんが?」
 二人が視線を向けると、刹那は恥ずかしそうに顔を伏せていた。
 マイト数が大き過ぎて魂を鍛える効果が見込めない木乃香と違い、刹那は霊力供給の修行を受ける意味は十分にあった。しかし、これまで彼女は修行を受ける事を頑なに拒んでいた。無論、横島が嫌だった訳ではない。単に木乃香の前で痴態を晒すのが嫌だったのだ。
 そんな彼女が何故今になって修行を受ける事にしたのか。その理由はやはり本人ではなく周囲にあった。

「横島さんは月詠に甘過ぎです! 彼女は『狂人』なんですよ! 下手に興奮させたら何をやらかすか分かりませんッ!」

 そう、サの付く人とマの付く人を併せ持つ変態、『狂人』月詠を監視するためである。
 シャークティが監視を止めると言う話は刹那も聞き及んでいた。当然、参加者ではない美空も逃げるだろう。こうなってくると同じく参加者ではない木乃香と刹那が霊力供給の修行を見学し続けるのは難しくなってくる。
 そこに月詠が参加をすると言い出したのだ。
 最近はおとなしくしているが、刹那の言う通り彼女は『狂人』だ。戦う事で興奮する変態さんである。そんな彼女が横島の霊力を注ぎ込まれてあふんあふんと言い出すとどうなってしまうのか。興奮して戦闘衝動を抑え切れなくなる可能性が高い。
「センパイ、いけずやわ〜。旦那さまとの約束があるから大丈夫ですよ〜」
「信用出来るかッ!」
 横島を始めとする他の面々は、月詠を警戒する事なく受け容れている節がある。ならばこそ自分が月詠を抑えなければならないと言う使命感に燃える刹那は、彼女を監視するため、その場に飛び込むために霊力供給の修行を受ける事にしたのだ。
 監視するだけでも良いのだろうが、月詠が修行を受けると言う事は、今よりも更に強くなる可能性があると言う事だ。彼女に対抗するため、木乃香を守り通すためには自分も強くならなければならない。そのためならば今まで恥ずかしがっていた修行を受けるのも厭わないと言う事である。
「と言う訳で横島さん、お願いします! 私を強くしてください!」
「お、おう。肩の力抜いて、な?」
 刹那の勢いに押される横島。一度吹っ切れてしまえば、彼女は修行する事に関しては貪欲である。月詠と言う脅威が間近に存在するため、やる気もひとしおであった。

「楽しみやわ〜。アスナ達すっごい嬉しそうに修行してるから、ウチもやってみたかったんよ」
「ウチも小竜姫様と戦う前に少しでも強くなっときたいから、丁度良かったです〜」
 そんな刹那の決意とは裏腹に、暢気な木乃香と月詠。この二人、意外と相性が良いのかも知れない。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.139


 その後、横島がシャークティ、美空と共に夜の警備に出掛け、アスナ達はいつも通りの勉強の時間となる。アスナ達は霊衣を着たままだったが、六道女学院進学と言う目標があるため気持ちを切り替えて真剣な表情で受験勉強に励んでいた。いつもよりも気迫が感じられる。
 千雨や刹那はこの光景を目の当たりにしながら、こう言うところが質が悪いと感じていた。
 既に色ボケと言ってしまっても良いであろうアスナ達だが、このレーベンスシュルト城で横島と共に暮らし始めてから授業態度は真面目になり、成績も上がって学生としては優等生になってきているのだ。シャークティが霊力供給の修行を止められなかった理由はここにある。
「ふっふっふっ……横島さんが帰ってくるまでに終わらせれば……」
「今晩からでも修行を始められるな〜」
 頬を上気させながら不敵な笑みを浮かべるアスナと、同じく頬を染めながらやけに嬉しそうにしている木乃香。
 それでも、いつもよりやる気を出して勉強している。横島が警備を終えて戻って来たら早速修行したいとお願いするために、今の内に今日の勉強を終わらせてしまおうと言う腹積もりのようだ。
 刹那が周りを見回してみると、皆多かれ少なかれ期待しているようだ。千雨も風香と史伽に質問され、面倒臭がりながらも問題の解き方を教えていた。
 動機は不純だが、結果は出してしまう。こう言う所が質が悪いのだと刹那はこっそりため息をつく。
「せっちゃん、手が止まっとるえ〜」
「あ、ごめん、このちゃん……」
 すかさず木乃香が声を掛けて来た。
 どうやら見逃してはくれないようだ。刹那も横島達が戻って来る前に勉強を終わらせる事になりそうである。


 やる気を出したアスナ達は、本当に横島達が戻って来る前に今日の勉強を終わらせてしまった。
 彼等が仕事から戻って来ると、待ち構えていたアスナ達がわっと集まって横島を取り囲んでしまう。そしてアスナは横島の胸に飛び込むように抱き着くと、キラキラした目で上目遣い気味に彼の顔を見上げながら可愛くおねだりを始める。
「横島さん、今から修行しませんか?」
「え? 今から?」
 彼女達の突然の申し出に横島は素っ頓狂な声を上げた。霊衣に着替えたままと言う事は、彼女達の言う修行が霊力供給である事はすぐに分かる。ここ数日放課後の麻帆良祭の準備が忙しく、夕方の修行が出来ない日が多かったため、アスナ達も我慢していたのかも知れない。
「でもな、外はもう暗いぞ?」
 レーベンスシュルト城の入ったこの水晶球は、外の時間に合わせて中も夜になれば暗くなるように調節されている。住人達の体内時計を狂わせないためだ。
「それに出城の方は照明付けてないだろ」
 アスナ達が夕方の修行に使用している出城はレーベンスシュルト城の外にある。城外は基本的に自然そのままなので、当然道は整備などされておらず街灯の類もない。そして横島の言う通り、出城の中にも電気照明の類は設置されていなかった。あるのはランプぐらいだ。
「うっ……」
 横島の指摘に思わず口ごもるアスナ。薄暗いランプの灯りの中で霊力供給の修行を行うのもロマンチックだと一瞬思ってしまい、顔がにやけてしまう。
「アスナさん、アスナさん」
「顔がにやけてるアル」
 左右の夕映と古菲に脇腹を突かれながら指摘され、ハッと我に返ったアスナは顔を真っ赤にして手をバタバタしながら「今のナシ!」と連呼する。
 そんな微笑ましい愛弟子の姿を眺めながら、横島は小さくため息をついた。彼とて霊力供給の修行をしたくない訳ではない。むしろ、楽しみだ。自重が必要とは言え、アスナ達と思い切り触れ合える時間なのだから当然である。これまでだって魅力的な少女達ばかりだったと言うのに、次から千草と刀子も参加すると言うのだから尚更だ。困る事と言えば、自分の自制心が心配な事ぐらいである。
「とにかく、今から出城は無理。忘れてないか? 城の外は野生動物とかもいるんだぞ?」
「あ……そうだったね」
 横島の言葉に、アキラは本城のテラスから眺めた眼下に広がる広大なジャングルの光景を思い出した。この水晶球は当時レーベンスシュルト城のあったアフリカ大陸の自然をそのまま水晶球に収めてあるため、危険な野生動物も生息しているのだ。城に近付いて来る事はほとんどないのであまり心配する事はないのだが、野生動物の動きが活発になる夜は出来るだけ避けた方が無難であろう。

 横島ならばきっとお願いを聞いてくれると思っていたが、思いの外正論で断られてしまった。予想外の展開である。
 出鼻をくじかれたアスナ達がどうしたものかと顔を見合わせていると、二階に続く階段から大きな声が聞こえてきた。
「待て、お前ら! 今からは私の時間のはずだぞ!」
 階段を降りて来たのはエヴァだった。修行に参加する訳でもないのに、何故かアスナ達と同じ薄手の霊衣を着ている。黒色を選んでいるのは、五行云々は関係なくただ単に彼女の趣味だろう。
 確かに彼女の言う通り、いつも通りならば横島が警備の仕事から帰ってきた後はエヴァが独占する時間だ。彼を部屋に招き、あの手この手で血をいただくのである。基本的に偉そうに振る舞っている彼女だが、この時ばかりは横島の体調を気遣って手法や吸血量を変え、時にはゲストとして歓待するなど意外なサービス精神を見せていたりする。
「て言うか、エヴァちゃん。なんで霊衣着てるん?」
「ん? ああ、私もこの手の服は初めてだからな。一度試してみようと思ったんだ」
 小首を傾げる木乃香に尋ねられ、エヴァは頬を紅く染めてそっぽを向きながら答える。
 アスナ達が霊衣を手に騒いでいる時は我関せずと言う態度でサロンでの騒ぎを見守っていたエヴァだが、こっそり自分の分を確保していたようだ。盛り上がっているアスナ達を見て、羨ましく思ったのかも知れない。

「あ、分かった! エヴァちゃんもいっしょにやりたいんやな? 分かるわぁ、アスナ達幸せそうやもんなぁ」
「って、こら、離さんか、近衛木乃香」
 何やら納得したらしい木乃香が、にこにこした笑顔でエヴァに近付くと、そのまま彼女の手を引いて階段を降りてくる。唐突な木乃香の動きに不意を突かれたエヴァは、されるがままにサロンに連れてこられた。すると、すぐさま彼女の周りに何人かの少女が駆け寄る。
「いや、だから、私はだな……」
 六百年生きてきた吸血鬼の真祖も、周りに千鶴、アキラと言ったのほほんとしている面々が集まるとただの子供扱いだ。
 確かにエヴァが毎晩吸血しているのは、横島の霊力をいただくと言う意味がある。これは霊力供給の修行でも事足りるものだ。
 しかし、彼女が皆と一緒に修行を受けないのには理由がある。エヴァ自身も自覚している事なのだが、人間にとって吸血行為と言うのは見ていて気持ちの良いものではない。そのため彼女は、血を吸う姿を人には見せないようにしているのだ。そう、同居人達に気を使っているのである。
 霊力をいただくだけならアスナ達と一緒に霊力供給をしてもらえば良いのかも知れない。しかしエヴァは吸血行為そのものがしたいのだ。吸血鬼にとっての吸血は、人間で言うところの食欲である。麻帆良で長年暮らしている内に食い道楽になった彼女の前に現れた極上の血を持つ男、これを前にして我慢しろと言う方が酷であろう。これだけは譲る事が出来ない。吸血量を制限しながらも、衣装やシチュエーションに工夫を重ねるなどして行為そのものは止めないあたりに彼女の気持ちが表れている。
「分かりました。では、私も参加しましょう」
 エヴァが何とか逃れようと四苦八苦している所に現れたのは、同じく霊衣を身に纏った茶々丸だった。エヴァと同じ黒色の霊衣を選んだようだが、メリハリの効いたスタイルのおかげか醸し出される雰囲気が随分と違う気がする。
「何が分かりましただ、この色ボケが!」
 茶々丸も後頭部に挿したネジを巻いてもらうと言う特殊な方法で霊力を供給してもらっているが、こちらはエヴァと違って赤の他人ならばともかく同居人であるアスナ達ならば見られても一向に構わないようだ。
「そうねぇ、出城に行くのがダメならサロンか本城の広い部屋を使わせてもらうのはどうかしら?」
「あ、そっか。そう言えば城に行ったらいくらでも広い部屋があるんだよね!」
 別棟から本城に移動するのは城壁内の移動であるため、夜でも特に危険はない。その気になれば魔法で照明を付ける事も可能だ。
「と言う訳で、エヴァちゃんどうかな?」
「何がと言う訳だ! そうだな、それなら……」
 律儀にツっこみは入れつつ、真剣に考えてくれるエヴァ。
 出城で使っている部屋はベッドがあるので、こちらもベッドがある方が良いだろう。エヴァは最初に自分の寝室を思い浮かべたが、流石にこれだけの人数を自分のプライベートルームに入れる気にはなれず、すぐに候補から外した。
 更にいくつか候補が思い浮かんだが、普段から使っていないため今すぐ使うには無理がある部屋ばかりだった。元々訪れる人は賞金稼ぎ等の襲撃者ばかりだったのだから仕方がないだろう。
 茶々丸の姉達に準備をさせれば良いのだろうが、それでは時間が掛かる。なんだかんだと言って乗り気なエヴァは、どこかすぐに使える部屋は無いかと頭を悩ませ、やがて一つの部屋の存在を思い出した。
「……ああ、あの部屋なら大丈夫だな」
「どこ?」
 ずいっと身を乗り出して尋ねるアスナ達。今夜霊力供給の修行が出来るかはエヴァに懸かっているため、彼女達も必死だ。
「横島の寝室だ」
「横島さんの……?」
 一瞬呆気に取られるアスナ達。普段は別棟で暮らしており本城は時折テラスや大浴場を利用するぐらいであるため本城の内部についてはあまり知らなかった彼女達は、本城に横島の私室がある事を知らなかったようだ。
「そんなのあったの?」
「……まぁな」
 エヴァはあえてアスナ達には言わなかったが、アスナ達がレーベンスシュルト城に引っ越す事が決まった当初、エヴァは横島を本城の自分の寝室の隣に住まわせるつもりだったのだ。今のように自分も別棟に行くつもりはなく、本城で横島を独り占めにする事を目論んでいたのである。しかし横島は当然のようにアスナ達と共に別棟に住み着き、仕方なくエヴァは別棟にも自分の寝室を作ったのだ。
 その時に用意した横島用の寝室が今も残っている。エヴァの寝室と同じく茶々丸の姉達が掃除も欠かしていないはずだ。かく言う彼女の寝室も修行を行う条件を満たしているのだが、流石に自身のプライベートルームに立ち入らせる気にはなれない彼女は、横島用の寝室を提供する事にした。隣室であるため扉を一枚開けばエヴァの寝室に入れるのだが、そこは鍵を掛けておけば問題ないだろう。
「そこで決まりですね!」
「早速行くアル!」
 アスナの左右から夕映と古菲が身を乗り出してくる。二人とも本格的になる修行に好奇心が抑えきれないようだ。
「ほら、早く早く!」
「行きましょう、横島さん!」
「待て、お前ら。せめて着替えさせろ。出来れば風呂も入らせてくれ」
 裕奈とコレットが待ち切れないと言わんばかりに横島の手を引くが、彼はそれに対抗して足を踏ん張っていた。先程警備から帰って来たばかりなので着替えねばならないし、汗も流したいのだ。以前の彼ならば前者はともかく後者までは気に掛けなかっただろうが、東京の事務所兼自宅やこのレーベンスシュルト城で少女達と暮らすようになってから、その辺りの気遣いも出来るようになったらしい。

 その光景を見ていて不安に思ったのか、シャークティが更に念押しをする。
「横島君。もう止めないけど、くれぐれも自重してね」
「わ、分かってますよ、もちろん」
 横島も自覚はあるのだろう。押され気味だがしっかりと返答し、それを聞いてシャークティはひとまず納得した。
「……まぁ、ここでやられるよりはマシね」
 他に場所がなければ、このままサロンで修行を始めかねない勢いのアスナ達。この別棟は一階にサロンがあり、二階以降はそのサロンを取り囲むように部屋と廊下があって中央は吹き抜けになっている。もしサロンで霊力供給の修行が始まれば、彼女達の声はシャークティ達の部屋にまで届いていたかも知れない。
 ここはあやかのように修行とは関わりのない少女もいるのだ。そう考えると本城に場所を移すのは有り難い話であった。

「まったく、それが終わったら血を吸わせろよ。一晩中離してやらんから覚悟しておけ」
 この流れを止める事を諦めたエヴァは、その後の自分の時間はきっちり確保しようとする。譲ったように見せかけて更に長時間拘束しようとするのが実に彼女らしい。
「あ、あの、マスター。それでは私の時間が……」
「お前は色ボケ共と一緒にやってもらえ! この色ボケロボが!」
 エヴァの言葉を聞いて茶々丸がささやかな抗議の声を上げるが、エヴァはこれを一蹴した。
 茶々丸への霊力供給は、エヴァの吸血とは異なり人に見られても問題がない。また、茶々丸自身も問題視していない。アスナ達と一緒にしてしまっても問題は起きないだろう。
「ああ、せめてもの情けだ。修行の間は一切の記録は残すなよ」
 茶々丸は見たもの、聞いたものを記録として残す事が出来る。それを残すなとエヴァは命じたのだ。
 確かに霊力供給の修行中の光景は、お世辞にも人に見せられたものではない。アスナ達はその辺が麻痺しつつあるようだが、それはレーベンスシュルト城には部外者が入って来ないと言う事と、彼女達の間に身内意識と言う名の連帯感があるためである。茶々丸の記憶は彼女の生みの親である超鈴音、葉加瀬聡美の二人も見る事が出来るのだから、その記録を残すなと言うエヴァの判断は正しいのだろう。
 以前のエヴァであればこのような命令は出さなかった。エヴァから見れば超と聡美の二人は協力者であり共犯者だ。しかし、今の彼女がその二人とアスナ達とを天秤に掛けた場合、後者に天秤は傾く。いつしかエヴァも、アスナ達に身内意識を抱いていたのだ。
「……了解しました」
 そんなマスターの心情をおおよそで察しながら、茶々丸は短く了承の返事をした。
「何故ハンカチを出す?」
「いえ、なんとなく」
 マスターの成長が嬉しいのか、ハンカチを持って涙ぐむような仕草をしながら。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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