topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.15
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 その日、エヴァは椅子から転げ落ちた衝撃で目を覚ました。
 寝ぼけ眼でムクリと起き上がり周囲を見回してみると、そこは大小様々な人形に取り囲まれている小さな部屋。アンティークな西洋人形を始めとして伝統的な工芸品の人形やぬいぐるみ。果ては入手経路不明の企業のマスコットやキャラクター商品まで所狭しと並べられたエヴァ自慢のコレクションルームだ。
 しばらくはそのまま座り込んでぼーっと呆けていたが、やがて脳がようやく働きだしたのか昨日の晩にさよの依り代となる人形を作っていたことを思い出した。そのまま眠ってしまっていたのだろう。
 毛布が掛けられていたが、これは起きる気配のないエヴァを見て茶々丸が掛けたと思われる。
 再び周囲を見回して彼女の姿を探すがこの部屋にはいないようだ。チャチャゼロとさよの姿もない。
 ふと時計を見れば既に朝八時。今朝は客人である横島とアスナがいるので茶々丸は既に家事を始めているらしく、一階の方から何やら話し声が聞こえてくる。
「…仕上げは後にして朝食にするか」
 ぼーっとしてどうにも頭がうまく働かない。これは腹を満たして胃を活動させないと解消されないだろうと、エヴァは依り代の完成は後回しにして先に朝食にしようとにぎやかな一階へと向かうが、丁度リビングの前まで来たところでエヴァの足がピタリと止まってしまった。

「ダメ…横島さん、もっと優しく…!」
「そんなに身体を硬くしないで…」

 中から聞こえてくる声に動けなくなってしまったのだ。
 声の主は言うまでもなくアスナと横島。横島の方は昨日エヴァが実力行使のスリッパで黙らせたが、どうやらそれだけでは足りなかったらしい。朝から元気である。
「…いや、夕べ眠らせるのが早過ぎたか?」
 横島を早く眠らせた事で現在元気が有り余っているのだとすれば何とも皮肉な話だ。むしろ、昨日夜遅くまで破魔札を投げる練習をしていたはずのアスナはどれだけ元気が有り余っているのかと、呆れるを通り越して「これが若さか」と感心してしまう。
 エヴァは後悔するが、もはや後の祭り。今もリビングから甘い声が垂れ流しになっている。
 人の家で何をしているのだと拳を握りしめ、今度は横島だけでなくアスナも黙らせてやろうとエヴァは助走をつけるために数歩下がり、そして十分に力を溜めると、まるで限界まで引き絞った弓から放たれた矢のように躍りかかり―――

「あー、気持ちいいー! これってマッサージ効果もあるんですねー!」
「ヒーリングしてるわけじゃないんだがなー」
「血行が良くなっていますので、神楽坂さんの治癒力が高まっているのだと思われます」

―――そのまま慣性の法則を完全に無視して垂直に墜落した。

 リビングの中は横島とアスナの二人だけではなかったらしい。茶々丸、チャチャゼロ、さよと全員揃っている。
 アスナがソファに座り、背後に回った横島が昨日と同じように霊力を流し込んでいた。ただし、今日のそれは霊力を使うための修行ではない。
 やはり、如何に健康優良児のアスナと言えども夜遅くまでの練習は堪えたらしく、横島はアスナの体内で霊力を充実させる事により、彼女の疲れた身体を癒そうとしていたのだ。

「マスター、いかがなさいましたか?」
 茶々丸が墜落したエヴァに気付いて駆け寄ってくるが、エヴァはピクリとも動かない。
「あ、エ、エヴァちゃんおはよう」
 どこか慌てた様子のアスナは照れか火照っているのか顔が赤い。本当にヒーリング効果だけだったのかと問い質してみたいが、それについてつっこむ気力は今のエヴァには欠片も残されていなかった。

 真相はこういう事らしい。
 早朝、朝刊配達のバイトを終えたアスナは、茶々丸が用意した朝食を済ませた後、すぐさま横島に修行を始めたいと言い出したそうだ。
 麻帆良に来て以来、朝は遅刻ギリギリまで惰眠を貪っていた横島だが、自分の家に住んでいた頃はしっかり者の同居人の影響で朝は早かったらしく、すぐさま目を覚ましてそれを承諾。
 しかし、横島が昨日に続けて応用的な破魔札の使い方を教えようとすると、アスナの方がそれを遮って霊力を使う練習をしたいと言い出したのだ。
 昨日言った通り人目がないところではやらないと最初は断った横島だったが、やはり相性が悪いのかそこに狙い澄ましたかのように茶々丸が登場し、彼は逃げ場を失ってしまう。しかも、そこで茶々丸は深夜まで練習を続けていたアスナの疲労を指摘。霊力の修行は血行促進による治癒効果も期待できると言い出して更に横島を追い詰めた。
 横島が観念して彼女に霊力を送ろうとすると、アスナは屋内だからとシャツのボタンを少し外して肩を露にする。横島には効果抜群なようで思わずのけぞってしまうが、確かに霊衣等ではない普通の服であれば、それを間に挟まず肌に直接触れた方が効率は良いので止めるわけにもいかない。いや、止めたくないと言った方が本音に近いだろう。
 本能と理性の狭間で師としての尊厳を守るために、横島は目を閉じて集中、集中と意識しないように努めて霊力を送り始めるのだが、視覚を閉ざしてしまった事でかえって他の感覚が鋭敏になってしまったらしい。手に触れる肩のぬくもりを感じる触覚、どこか熱っぽい声を聞く聴覚、アスナの髪から漂うシャンプーの香りさえも嗅覚があますことなく感じ取り、それらが総動員して横島の理性に襲い掛かっていた。飲み込んだ生唾の味、味覚さえも鋭敏に感じてしまう。
「あふぅっ…」
「ぐ、ぐうぅ〜」
 アスナの悩ましい溜め息に、苦しみながら耐える横島。
 さよがふわふわと横島の周囲を漂いながら心配そうに見詰めているがそれに気付いた様子はない。
 どうやら苦しみながらも、その意識は苦しみの原因であるアスナに集中しているらしい。男のサガである。
『よ、横島さん、血の涙流してますよ〜』
「さよさん、横島さんは今死闘を繰り広げているのです。暖かく見守りましょう」
『し、死闘ですか!? いったい誰と…』
「『敵ハ内ニ在リ』、ウマイコト言ッタモンダナ」
 結局、茶々丸達の目があったおかげか横島はエヴァが飛び込んでくるまで甘い地獄に耐え抜いた。
 それだけではなく、この時の横島は霊力を使いながら同時にそれ以上の霊力を溜め込むと言う離れ業を行っていたのだ。人類永年の夢である永久機関を実現していたと言ってもあながち間違いではないだろう。
 全盛期のエヴァを相手にしても互角に戦えてしまいそうな勢いではあるが、理性が焼き切れた時点で暴走してしまうので、安全性においては致命的な欠陥を抱えた永久機関である。

「――とまあ、こういう事がありまして」
「…もうどうでもいい」
 力尽きたのかリビングの床に倒れ伏したままのエヴァ。
「ナニ妄想シテヤガッタンダカ」
 そんな彼女をチャチャゼロがニヤニヤしながら見詰めていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.15


「で、貴様らの今日の予定はどうなっているんだ?」
 遅めの朝食を終えたエヴァが横島に問い掛けた。
 アスナには聞かない。と言うのも、昨日のうちにエヴァ達の間では「明日一日、アスナをエヴァの家から出させない」と言う密約が交わされているからだ。
 それにアスナは聞くまでもなく横島と一緒に居て修行しようとするだろう。そのため横島がこの家に居なければならないのは既に分かっているので、彼女の質問は今日行う修行内容を聞いている事になる。
「とりあえず、破魔札で多角的にどう対処するかの練習だな」
「多角的?」
「ほら、悪霊って壁とか関係ないし」
「なるほど、そういう事か」
 アスナが二人の会話に疑問符を浮かべるが、エヴァの方はそれだけの会話で察した様子で微笑んだ。
 ある程度物質に近い身体を持つ妖怪と違って、悪霊と言うのは霊的防御の施されていない壁、床、天井を容易くすり抜けてしまう。時には足の裏の下から攻撃されるなんて事もあるため、GSは除霊の現場においては常に周囲に気を配らなければならない。
 流石に今のアスナに床下からの攻撃を感知しろなどと無理難題を突きつけるつもりはないが、せめて前後左右の敵にはすぐさま向き直り、或いは腕の動きだけで対処できるようになってもらいたいのだ。
「理屈としては分かるが、具体的にどうするつもりだ?」
「とりあえずゴムボールを用意したから、アスナの周りで隙見て投げようかと」
「私が白札でそれを受け止めればいいんですね」
 つまり、アスナの周囲をぐるぐると回りながらボールを投げ、それをアスナが手に持った白札をグローブ代わりにして受け止める事で、擬似的に四方から攻撃される状況を作ろうと言うのだ。
 一般のGSがこのような修行を行うことはあまりないが、身体で覚えさせると言う意味では単純ながらもそれなりに効果がありそうだ。霊能力者の修行と言うよりむしろスポーツのそれのようだが、それが横島の知識で思い付く限界でもあった。

 しかし、危険を感じさせない「ぬるい」内容にエヴァは不満そうな顔を見せる。
 横島の提案した修行内容に潜む欠点を見つけ、すぐさまそれを指摘し始めた。
「…投げる貴様を目で追う事ができれば意味がなかろう」
「うっ」
 「いつ」投げてくるか分からなくとも、横島の動きを目で追っていれば少なくとも「どこから」投げてくるかは分かってしまう。それではこの修行の本来の目的は達せられないだろう。
「それになんだ、この柔いボールは。こんなもの当たった所でなんのデメリットもあるまい。横島、貴様神楽坂明日菜に甘いのではないか?」
「ぐぐぅ、それは…」
 横島は反論する事ができなかった。修学旅行前に怪我をさせては可哀そうだとも考えていたが、やはりアスナに対してどこか甘さがある事は否定できない。
「例えば、この暴徒鎮圧用の特殊ゴム弾とか」
「物理的に危険なのはちょっと…てか、何でそんなもんまで持ってるんだお前は」
「あ、それは私の特殊装備用の物です」
 他にもエヴァは色々と危険物、主に茶々丸用の武装を持ち出してくるが、横島も譲らなかった。
 既に霊力が使えるならともかく、まだ素人の域を脱していないアスナに対して、ひどい怪我を負うような修行はさせられないと考えているのだ。怪我は文珠で治せるのだが、それとこれとは話が別らしい。
「ならば水風船を使用するのはいかがでしょう?」
 いがみ合って一触即発の雰囲気になってきたエヴァ達を見かねて茶々丸が妥協案を提案する。
 水風船ならば当たっても怪我をする事はないだろうが、割れてアスナは水びたしになってしまう。
 水の冷たさはそれなりに効果はあるだろうが、身体が冷えてきたならばシャワーでも浴びれば良いのだ。
 話を聞いたエヴァも横島もその意見に同意を示し、アスナの修行には水風船が使われる事となった。
 横島は水風船など用意していなかったが、茶々丸がどこからともなく持ってきてくれた。実はエヴァがネギとの戦いの際に使おうと用意したのだが、結局ネギの実力を見たエヴァが必要ないと判断してお蔵入りにしていた物らしい。水風船をトラップにしてネギをずぶ濡れにする事で、エヴァの得意とする氷の魔法の威力を高めようとしたのである。
「…って、部屋が水浸しになるぞ?」
「ある程度はマスターの魔法薬で何とかなりますが…一応ビニールシートをご用意いたします」
「それよりどうやって投げるかだな。貴様は姿を消したりできんだろう」
『あの〜、それなら私がやりましょうか?』
 まずエヴァが、それに少し遅れて横島がその声に反応した。
 おずおずと挙手したのはさよ。足のない幽霊である彼女ならば足音はしない。何よりアスナはさよを感知できない。
「貴様、物に触れる事ができるのか?」
『壁に手をついたりできますから大丈夫ですよ〜。いざとなったらポルターガイストしちゃいます』
 その返事を聞いたエヴァが満足そうに頷いている。
 さよの声が聞こえないアスナには彼女の返事の内容は分からないが、どんどん修行の難易度が上がっていっている事だけは理解できる。
 GSになるためならば難しい修行も厭わないと考えているのだが、どうにもエヴァが自分をおもちゃにして楽しんでいるのではないかと思えてしまいアスナは引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。

 とは言え、さよは見えなくても彼女が持っている水風船は見える。
 水風船にさえ気をつけていれば良いだろうとアスナは軽く考えるが、そうは問屋が卸さなかった。
「ソウダ、周リニ水風船ヲ吊ルスノハドウダ?」
「なるほど、注意力を逸らすのによさそうだ」
『それなら、私の持ってる水風船も目立たなそうですね〜』
「了解しました。では早速」
「あの、そんなにいっぱい…」
 みるみるうちに吊るされた大量の水風船がアスナ包囲網を形成していく。しかも、それら全てが微妙に揺れ動いているのだ。この中を水風船がこっそり移動してもよほど注意深く見ていなければ、それを見つけ出すのは困難であろう。
「依り代は夕方までに仕上がるだろうから、茶々丸はこちらを手伝ってやるがよい。私の方の手伝いはいらん」
「了解しました、マスター」
 人形作りにこだわりのあるエヴァは、どんな細かな作業でも茶々丸の手を借りようとはしなかった。
 昨日は久々の作業であったため作業スペースの整理や道具の準備等を手伝わせたが、事仕上げの段階に至っては自分一人で大丈夫だと判断したのだろう。集中するためには他人の目は邪魔だとも考えているので、茶々丸にはアスナの修行を手伝うようにと体よく追い払った。それは人形作りのためだけではない。もう一つの重大な理由がある。

「クックックッ、朝っぱらからあふんあふん言ってる色ボケを完膚なきまでに痛めつけてやるがいい」

「思イッ切リ私怨ジャネーカ。器小セエナ、オイ」
 チャチャゼロの言う通りである。

「えーっと横島さん?」
「大丈夫、ヒドい事になる前に止めるから」
 遠回しな視線で助けを求めてみるが、横島には止める気がないらしい。
 どんな試練もどんと来いと考えていたのは他ならぬアスナだ。予想外に厳しくなってしまったが、こうなったらやってやると自ら頬を叩いて気合を入れ直した。

「提案します。水着に着替えられてはいかがでしょう?」
「それ、当てまくるって事? だ、大丈夫よ、反射神経には自信あるんだから!」
「そうですか? …では、私もお手伝いさせていただきます」
 強がるアスナを見て、茶々丸は自らも水風船を手に取った。
 余計な事を言ってしまったかとアスナは口元を引きつらせて後ずさるがもう遅い。
『アスナさ〜ん、いきますよ〜』
 満面の笑みを浮かべるさよ。数十年間孤独であったためか「皆と一緒」と言うのが嬉しくてたまらないのだろう。
 茶々丸は両手に水風船を持ちながらも恭しく一礼しているが、その優雅な動きとは裏腹にこちらはやる気満々だ。表情こそ変わらないがその瞳は燃えている。アスナの強がりが彼女に火を着けてしまったのかも知れない。
「では、参ります」
「こうなったらやってやろうじゃない! 横島さん、見ててくださいっ!!」
 アスナは開き直って、自分を奮い立たせるべく気合を入れる。
 こうして、見習GSの修行漬けの一日が幕を開けた。

「ぐふふ、濡れたブラウスに浮かび上がるブ…いかんいかん、ここは師匠としての威厳を見せねばッ!」
 かたやその弟子の奮闘を見守る師匠は実に横島であった。
 手にしたハンディカムは弟子の成長を記録するため、と主張しているが真相は定かではない。



 一方、エヴァ達に今日一日アスナをエヴァの家から出さないように頼んだ張本人は繁華街に繰り出していた。
「なな、コレなんかどやろ、ネギくん♪」
「いいですねー。かわいいですよ!」
 そう、それはアスナのルームメイトであるネギだ。現在彼はもう一人のルームメイトである木乃香と原宿へ買い物に出掛けていた。
「それにしてもええタイミングやなー」
「ええ、チャンスだと思ったので、すぐに横島さんに頼んじゃいました」
「明日はアスナの誕生日やからなー」
 当然、彼は嫌がらせで横島達にアスナの閉じ込めを頼んだわけではない。
 実は明日がアスナの誕生日なのだが、パーティの準備をしようにも同じ部屋で暮らしているため、内緒で準備を進める事ができなかったのだ。
 そこでエヴァの家に一泊しての修行の話が持ち上がり、ネギはここぞとばかりに横島とエヴァを巻き込もうとした。そもそも横島達の宿泊にすら反対していたエヴァもその話を聞くと態度を一変。「秘密裏に準備を進めて驚かせる」と言う企みがお気に召したようだ。渋々承諾すると言うポーズは崩さなかったが。

 自分達もエヴァの家に押しかけようとしていたまき絵達を止めたのも、同様の理由だ。
 ネギは彼女達にもアスナの誕生日の事を教えて巻き込んだのだ、アスナに知られないためと、パーティを盛大なものにするために。今頃彼女達も独自にパーティの準備を進めているはずである。

 ちなみに、いつもならネギの肩の上を定位置にしているカモだが、今日は別行動を取っていた。
 彼は魔法使いの事情を知らない木乃香がいるとろくに喋ることもできないので、今日は独自にアスナの誕生日プレゼントを探しに行った豪徳寺と行動を共にする事にしたのだ。
「豪徳寺の兄さんは女心が分かってねーから、俺っちがバッチリレクチャーしてやるぜ!」
 カモはそう言ってタバコを手に意気込んでいたが、彼なら女心が分かっているかと言えば微妙なところだ。
 今頃カモはアスナへの誕生日プレゼントにシルクのランジェリーでも薦めてしっぽをひねられている事だろう。

 そして、まるで姉弟のような雰囲気で微笑ましく買い物をするネギと木乃香を物陰から見詰める者達がいた。
「ちょっとあれ、ネギ君と木乃香じゃない?」
「ホントだー、こんなところで何やってんだろ?」
「もしかしてデート?」
 ネギの生徒である『チアリーダー』柿崎美砂、椎名桜子、釘宮円の三人組だ。
 こちらも修学旅行の準備のために買い物に来ていたのだが、その途中でネギ達を目撃して今に至っている。
 「教師が生徒に手を出したのか」、「いや、教師が生徒に『手を出された』のだ」等々騒いだあげく『当局』に連絡すると携帯電話を取り出した美砂。桜子は職員室に連絡するのかと驚きの表情を見せるが、美砂の携帯電話に学校の電話番号など登録されてはいない。
 何より彼女達の誤解をそのまま職員室に連絡すれば大問題となってしまう。それに彼女達にとってはこのようなトラブルは告発するものではなく楽しむもの。当然連絡先も騒ぎをより大きくするためのファクター、ネギ達のもう一人のルームメイトであるアスナだったのだが…。 「あれ? 出ないよ?」
 当のアスナは現在水風船の弾幕に晒されているので、電話に出られるわけがなかった。

「実はアスナも噂の横島さんとデート中だったりして」
「きゃー♪」
「いや、そっちは流石に秘密の特訓中か何かでしょ」
 三人の中では比較的常識人の円がノリ優先の美砂と桜子を嗜める。
 実際にアスナが横島と一緒にいるかは分からないが、今がGSを目指す彼女にとって大事な時期である事が分かっている円は、何とか彼女を巻き込まないようにしようと軌道修正を試みた。
「それより二人を追いましょ。行っちゃうわよ」
「おっとそうだった」
「アスナの方も気になるけど、今はこっちだね」
 ネギ達が移動し始めた事を円が告げると、二人はあっさりとアスナの事を脇にやってネギ達を追跡し始める。少女達にとっては遠くのゴシップより目の前の現場らしい。
 円は軌道修正できたことにほっと胸を撫で下ろして、ネギ達を追跡する桜子達の後に続き―――。

「アスナさんの誕生日プレゼント、何がいいでしょうか?」
「そやなー…去年はアクセサリーあげたんやけど、アスナ結局使うてへんし」

―――その直後に彼等の目的を知ってしまい、三人揃って盛大にずっこけた。
 探偵のように追跡してやろうと楽しみにしていた桜子と美砂もそうだが、特に円は自分の苦労は何だったのだと脱力して突っ伏してしまっている。

「…誕生日プレゼント買いにきたんだって」
「そーいや、明日だっけか」
「どーしよ?」
「いっそ、ネギ君と合流しようか」
「よし、行こ行こ♪」
 当初の目的は修学旅行の準備のための買い物なのだが、それは既に忘却の彼方のようだ。
 こうなったらネギ達と合流して自分達も楽しんでしまえと考え始める。こうなったら少女達は止まらない。
「おーい、ネギくーん」
「って、ちょっと買い物は!?」
「そんなの後でいいじゃん。アスナの誕生パーティやるなら、参加しないわけにはいかないでしょ」
「う、そりゃそーだけど…」
 真っ先に駆け出した桜子達を止めようとした円だったが、逆に美砂に言い返されて言葉を詰まらせた。
 彼女の言う通りアスナの誕生パーティがあるなら、友人として祝わない訳にはいくまい。
 円は溜め息一つつくと二人と共に駆け出した。せっかく原宿まで来たと言うのに今日はもう買い物は無理だろうと半ば諦めの心境で。
 今、彼女が考えているのは、目的だった物が学園都市内で買えるかどうかだ。修学旅行まであと二日、つまり目的の買い物をするならば明日するしかないのだが、流石に前日には遠出をする気にはなれないようだ。

 そして三人は強引にネギ達に合流。そのままネギ達の企みに加わった。
 そのまま買い物を続けて、ネギと木乃香はアスナの好きな曲のオルゴールを購入。
 美砂と円の二人は服を購入したのだが、美砂は「勝負服よ!」と、円はアスナがGSの弟子になった事を考えて動きやすいものをと、それぞれに個性の出るチョイスだ。
 そして桜子は「これで身体を鍛えてね♪」と何故かダンベルを購入していた。これもまた個性が溢れ出ている。

 ネギが言うには、アスナの誕生会は今日の夜、エヴァの家の庭で行われるそうだ。
 場所に関しては横島と豪徳寺の「女子寮になど行けん」と言う、同じでありながら理由は正反対である二人の意見を汲み上げたものであり、誕生日の一日前なのは修学旅行前日に夜遅くまで騒いでは旅行当日に響くだろうと言うネギの気遣いである。
 桜子達はパーティ会場がエヴァの家である事に驚きを隠せなかったが、まき絵達もこの企みに参加している事を聞くと揃って納得した顔になる。最近になって急に彼女達が仲良くなったのは周知の事実だったからだ。

「そう言えば、料理はどうすんの?」
「古菲さんが『任せるアル』って言ってました」
「って事は『超包子(チャオパオズ)』かなー」
 そう言って絶品の点心に思いを馳せる桜子。
 彼女達のクラスメイトである『麻帆良の最強頭脳』の異名を持つ超鈴音(チャオリンシェン)。彼女はロボット工学、生物工学、量子力学に精通した科学者であると同時に格闘家、料理人としての顔も持つ天才少女だ。
 ネギとエヴァが戦った時などは、エヴァに協力したりする裏の顔を持つ一方で、それだけでは飽き足らず学園祭開催期間中のみの中華点心専門路面電車屋台『超包子』経営者と言う顔まで持っている。
 麻帆良学園の学園祭は一大テーマパークのような様相を呈しており、噂を聞きつけ関東全域から観光客が訪れるほどの一大イベントとなる。開催期間は三日間のみだが、その間に数千万円を荒稼ぎするサークルや生徒が存在するほどだ。そんな彼等は『学祭長者』と呼ばれており、去年、一昨年と『超包子』を大繁盛させた超もその一人なのだ。
 料理を担当するのは超と料理研究会に所属する四葉五月。設備は茶々丸の製作者である葉加瀬聡美が担当しており、この三人はクラスメイトからは『超一味』と呼ばれている。
 古菲は茶々丸と共にその『超包子』で接客、つまりウェイトレスをしていたので、そのつてで今日の誕生パーティの料理を任せようと言うのだろう。
「それは期待できるねー!」
「なーんか、次の学園祭に向けた新作料理の実験台にされそうな気もするけど」
「コラコラ」

 パーティの開始は夕方からだ。横島が「秘密の特訓」と称してカーテンを閉じ、外が見えないようにしてくれる段取りになっているが、あまり早く行き過ぎるのは危険であろう。
 五人が時間までどうしようかと考えながら街を歩いていると、ネギ達の前に見覚えのある人物が姿を現した。
「あれ? いいんちょじゃん」
「か、柿崎さん!? ネギ先生まで! わたっ、私は別に、何も…!」
「いや、何もなかったら原宿まで来ないでしょ」
 知り合いに出会ったことに明らかに動揺している「いいんちょ」こと雪広あやか。彼女が一人でウィンドウショッピングと言うのは非常に珍しい。
「いいんちょさんもお買い物ですか?」
「え、ええ…ちょっと私用で」
 照れ臭そうにもじもじとしているあやか。その態度に木乃香達四人は疑問符を浮かべた。
 あやかがネギを偏愛している事は周知の事実ではあるが、彼女はそれを決して恥じようとはせずに、むしろ堂々と誇らしげに胸を張っていた。そんな彼女がネギを前にしたぐらいでもじもじとするのは絶対におかしい。
 だとすると、彼女の照れには別の理由があると言うことだが…。

「あ、もしかして」
 最初にそれに気付いたのは木乃香だった。
「いいんちょもアスナの誕生日プレゼント買いに来たんやな?」
「っ!?」
 木乃香の指摘を受け、真っ赤にした顔を伏せるあやか。
 返答はその態度だけで十分であった。

 普段はいがみ合っているアスナとあやかだが、やはり二人は幼馴染の親友同士と言う事だろう。
 あやかがこっそりと隠れてアスナの誕生日プレゼントを買いに来た理由は今の彼女を見ればわかる。恥ずかしいのだ、周囲にはいがみ合っていると思われているだけに特に。
 そのために普段来ない原宿まで足を延ばしているあたり、友情に厚いあやかの一面が伺える。
「それで、いいんちょは何買ったの?」
「え、ええ…シルバーアクセサリーを。銀は魔除けになると言いますから」
「おー! さっすが、センスいいじゃん!」
 桜子達に囲まれたあやかはいつもの調子が出せないのかされるがままになっている。
 見かねたネギが助け舟を出したことでその場は収まり、そのままネギはあやかも誕生パーティへと誘う。
 普段の彼女ならば恥ずかしがって参加せずに、こっそりプレゼントを届けるだけで済ませていただろうが、ネギからの誘いとあらば断るわけにはいかない。
 「ネギ先生のお誘いなら喜んで!」と二つ返事で了承したが、今となっては軽々しく承諾した事を後悔していた。
 このままだとパーティ会場では桜子達三人にまき絵達四人も加えて七人がかりでからかわれるのは目に見えているからだが、それでもあやかは約束を違えるなどは欠片も考えてはいなかった。
 責任感が強いと言うのもあるが、やはり心の奥底ではアスナの誕生日を祝ってやりたいのだろう。

 ここにルームメイトの村上夏美と那波千鶴がいれば、きっとこう言っていたはずだ。
「いいんちょってば、いい人なんだけど…」
「何かと損をするタイプなのよね」
 そしてあやかの真意を察して、暖かく見守っていたであろう。
 これも一つの友情の形である。



「それじゃ今日はここまでにしようか」
「あ、ありがとうございました〜」
 時は過ぎて夕暮れ時。エヴァの家では修行漬けの一日を終えたアスナが突っ伏していた。
 例の水風船の修行は昼頃まで続けられ、いいように水風船を当てられまくったアスナは当然水浸しになり、横島は密かに喜んでいた。
 昼からはリビングの後始末を終えた茶々丸が私用と称して出掛けてしまい、さよも地下室のエヴァに呼び出されてしまったため、座学をすることになった。内容は横島が荷物持ちの時代から現在に至るまでに身に着けたサバイバル技能に関するレクチャー。特に敵から逃げる事に重点を置いて教えているあたり、横島は京都の事を意識しているのかも知れない。

「そう言えば茶々丸さん遅いわね」
「そ、そうか?」
 何気なく言ったアスナの一言に焦りを隠せない横島。
 と言うのも、彼は茶々丸が今ネギ達と一緒に家の外でパーティの準備を整えている事を知っているのだ。
 レクチャー内容を外に漏らさないためと部屋のカーテンを閉め切っているが、注意して耳を澄ましてみると微かに話し声が聞こえてくる。授業を終えた事で部屋の中が静かになって、外の声が相対的に目立ち始めたのだ。

 このままでは時間の問題だと思われたその時、『夕御飯の準備ができましたよ〜』とさよが扉をすり抜けて現れた。準備完了の合図だ。
 何とか隠し通せたかと胸を撫で下ろした横島はアスナをエスコートして外に連れ出す。
 そして、玄関の扉を開けたところで一斉にライトアップ。
 一瞬目が眩んだアスナが目元を腕で隠した次の瞬間―――

「「「「「お誕生日おめでと〜!」」」」」

―――クラスメイト達の声が響き渡った。

「え? え?」
 アスナは状況を理解できずにきょろきょろと周囲を見回すが、その目に入ってきたのは「ハッピーバースデー・アスナ」と書かれた横断幕。この時彼女は、この集まりが自分の誕生日を祝うパーティだと理解した。
 見ればクラスメイトだけでなく豪徳寺の姿もあり、女子中学生の中、学ランリーゼントの姿は妙に浮いている。
「あれ? 私の誕生日明日なんじゃ…」
「だったら、十二時過ぎるまで騒げばいいじゃん♪」
 桜子が戸惑うアスナの手を引いて大きなケーキの前まで連れて行く。
 五月特製のジャンボケーキ。当初の予定以上に人が集まってしまったが、全員に切り分けてなお余りあるサイズだ。

「はい、アスナさん。一日早いですけど、僕と木乃香さんからの誕生日プレゼントです」
「オルゴールや。アスナが好きやて言うてた曲が入っとるえ」
「ネギ、木乃香…ありがとう」
 GS助手の修行の事ばかり考えて、自分の誕生日の事など忘れてしまっていたアスナは、突然の出来事に思わず涙ぐんでしまう。それを見たクラスメイト達は「ここが攻め時だ」とでも思ったのか、次々にアスナにプレゼントを手渡して行く。
「鍛えるのはいいけど、ほどほどにね。たまにはこんなの着てデートしなよ」
「私は真面目に選んだからね。動きやすいやつだから、普段着に使って」
「アイヤ、二人も服だたアルか。私はチャイナドレスを持てきたよ」
 アスナの手にどんどんとプレゼントが積み上げられていく。
 古菲も円と同じように動きやすい服をと考えたらしいが、彼女が選んだのはスリットの深いチャイナドレスだった。
「アスナ、これで身体を鍛えて頑張ってね♪」
「む、ダンベルか。被らなくて良かったな」
 一方、豪徳寺が選んだのはウェイトトレーニング用のアンクル。
 身体を鍛えるものとしてダンベルにするか迷ったそうだが、カモの助言に従いこちらを選んだそうだ。結果として桜子のプレゼントと被らなかったのは幸運だと言える。

「アスナさん、これをどうぞ」
「い、いいんちょまで」
「ネギ先生に誘われましたから仕方なく、今日は特別ですわよ!」
「あ、ありがとう…」
「う、今日はやけに素直ですわね…」
 次にあやかがプレゼントを手渡した。  恥ずかしいので強がってみせたが、感極まったアスナはそんな彼女にいつも通りのリアクションを返すことができず、逆にあやかの方が戸惑ってしまう。
 クラスメイト達がニヤニヤと見守っている事に気付いたあやかは、慌てて次に控えていた和美にバトンタッチしてその場を離れた。
「ほいほい、次は私だねー。この前撮ったアスナの修行中の風景、いい写真があったからパネルにしてみたよ」
 そう言って和美が手渡したのは小さな写真立て。そこには世界樹前広場で神通棍を手に横島からレクチャーを受けるアスナの姿が写されていた。
 常にカメラを持ち歩いている彼女ならではのプレゼントと言えよう。

「私達からはこれね」
「修行もええけど、その後のケアをちゃんとせなあかんよ」
 まき絵達は揃ってスポーツ用品をプレゼントとして持って来た。
 保健委員でもある亜子は、トレーニング後のケアに使う物を中心に持って来ている辺りその性格が伺える。

「ほらほら、めでたい席に涙は似合わないネ。せっかく『超包子』が全力を以って用意した料理だから、皆楽しむヨ」
「う、うん…」
 涙ぐんだアスナが何も喋れなくなってしまったので、見かねた超が出てきて皆に料理を楽しむよう促した。
 彼女達は今日パーティの事を知って一日料理の準備に追われていたので、プレゼントは用意できていない。言うなれば、この料理こそがプレゼントと言える。

 あとは飲めや歌えの大騒ぎだ。教師であるネギがいる手前アルコールはないが、彼女達はそんなものがなくとも大変な盛り上がりを見せた。
 豪徳寺と一緒に女子中学生の輪から離れていたカモは「これが若さか…」と呟いていた。こういう台詞が出てくるあたり、もう若くない証拠である。


「随分と増えたな…まぁ、いい。お披露目にはちょうどよかろう」
「あ、エヴァちゃん。何やってたのー?」
 宴もたけなわに達した頃、家の中からエヴァが現れた。
 その手の上に立つ小さな影はチャチャゼロ…ではない。サイズはチャチャゼロと同じだが、白く長い髪に紅い瞳。そしてセーラー服。横島だけがその姿に見覚えがあった。
「完成したのか。さよちゃんの依り代」
『横島さ〜ん。私、普通に喋れるようになりました〜』
「フッ、私の手に掛かれば容易いことだ」
 そう、エヴァに手に乗る人形はさよ。エヴァが本人をモデルに作り上げたハンドメイドの人形を依り代にして、普通に動き、話せるようになったのだ。
 顔自体はチャチャゼロと同じ造形のはずなのだが、さよの方が幼げに見えるのは彼女の性格故であろう。不気味さの欠片もない、何とも可愛らしい人形に仕上がっている。
 エヴァの説明によると、彼女の手によりさよは人形に括られて地縛霊ではなくなったのだが、やはり存在感が薄いせいか括りも弱くなっているとか。気を抜けば人形の体から離れてしまうが、その時は身体を重ねるようにすれば元に戻れるとの事だ。

 当のさよは、そんな欠点を抱えた身体でも喜びに満ち溢れていた。幽霊の時と違って飛ぶ事はできなくなってしまったが、そんな事はどうでもいい。
「うわっ、人形が喋ってるー!?」
「あ、もしかしてさよちゃん?」
「え、誰?」
「ほら、ウチのクラスにある座らずの席の」
「幻の出席番号一番!」
 人形の身体は誰の目にも見えるのだ。人形の身体を通して出す声は、誰の耳にも届くのだ。
 さよは何よりもそれが嬉しかった。

 外見は可愛らしい人形であるさよ。
 てくてくと歩いて皆の前まで行くと、途端に今まで話すこともできなかったクラスメイト達に囲まれてしまった。
「ね、ね、横島さん! 触っても大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だよ、悪霊ってわけじゃないからな。仲良くしてやってくれ」
「もちろん!」
 さよを抱き上げて満面の笑みで答えるまき絵。
 エヴァの時もそうだったが、幽霊人形をあっさり受け容れてしまう彼女達の適応力は凄い。
 「可愛いから」と言う理由はあるが、逆に言えばそれだけだ。この懐の深さは横島も見習いたい…と思ったが、考えてみれば彼自身美女であれば妖怪だろうが神族、魔族であっても気にしないので、そういう意味では似た者同士なのかも知れなかった。

「でも、どうしてエヴァちゃんがさよちゃんの身体を?」
「あー、手作りの人形ってのは魂が宿りやすいからな。それで俺から人形作りが得意なエヴァに頼んだんだよ」
「へー、エヴァちゃんってそんな特技があったんだ」
「ま、まぁな」
 実はエヴァは『人形使い』の異名を持つドールマスターだ。その名に恥じず人形に関しては何百年も研鑽し続けてきた高い技術を持つのだが、それが「特技」の一言で済まされてしまった。
 ここにいるメンバーの半分ほどは魔法使いの事を知らないので仕方がないのかも知れないが、エヴァが引きつった笑みになってしまうのは仕方があるまい。

 何にせよ、さよは無事にクラスに受け容れられそうなので横島達としては一安心だ。
 ここにクラスメイト全員がいるわけではないが、何かあればここにいる少女達がフォローしてくれるだろう。
 その後、さよを一人だけ夜の学校に帰すわけにはいかないと盛り上がった面々は、誰がさよを連れて帰るかを話し合い始めた。横島がエヴァの方に視線を向けるが、彼女は仕草で「勝手にどうぞ」と促すばかりで口出ししない。
 さよの身体はあくまでただの人形で、機械的に動かしているわけではない。そのため特にメンテナンスは必要ないとの事。何かあってもすぐに直せるので、寮から学校に通っても一向に構わないそうだ。

『朝倉さん、よろしくお願いしますね』
「なんか変な感じだけど…こっちこそよろしく」

 話し合いの結果、さよは和美が引き取ることになった。席が隣と言うこともあり、さよが和美の事を気に入っていたためだ。
 何人もが本気で悔しがっていたが、さよの決めた事なので誰も口出しできなかった。
 そうでなくとも、嬉しそうに和美の肩に乗るさよを見れば、口出しする気など失せるというものだ。


 さよの事も決まって一段落ついた後、裕奈がある事に気が付いてつつつと横島に近付いた。
「そう言えば横島さんは? 師匠から弟子への愛のプレゼントはないの?」
 そう、横島がいまだにアスナにプレゼントを渡していない事に気が付いたのだ。
「用意はしたけど、昨日の夕方に話聞いて、今日は一日修行だったからなぁ…」
「何を渡すかより気持ちが大事なんだって」
「女の子にとっては、そういうもんなんか?」
「そうそう!」
 そして「きゃー!」と盛り上がる面々。何を期待しているかが実に分かりやすいが、横島はそれに応えず「ほい、プレゼント」とあっさり包みをアスナに手渡した。
 アスナが包みを開けてみると、中から出てきたのは一着のジャケット。
 派手なものではなく、見た目にも丈夫そうだ。一つハッキリと言えることは、あまり女の子が喜んで着る類のものではないと言う事である。

「ウチには制服がないからなぁ」
「?」
 横島の言葉に皆が疑問符を浮かべる。
 しかし、横島は周囲の反応を気にも留めずに、アスナだけを見据えて話を続けた。
「それ、実は俺のお古なんだよ。こっちに持ってきてるもんの中で、アスナも着れそうで一番丈夫そうなのを選んだ」
 お古と聞いた美砂が「信じられない」と言った表情で何か言おうとしたが、それをアキラが口を押さえて止める。
 横島の雰囲気から何となくだが彼女は察したのだ。横島のプレゼントはジャケットそのものではないと。
「除霊現場に出る時はそれを着てくるように、いいね?」
「え…それって…」
 その言葉を聞いたアスナの頭が真っ白になる。
 横島の言葉、それが意味する事はつまり―――

「次の仕事がアスナのデビューだから、今日教えた事は忘れずに復習しとけよ」
「は、はい!」

―――見習GS、除霊助手アスナの誕生である。

 ワンテンポ遅れて皆から拍手が巻き起こった。
 これぞ、彼女にとって最高のプレゼントであろう。



つづく



あとがき
 これにて修学旅行準備編は終了となり、次回から修学旅行編に突入します。
 修学旅行編でまた新たに何人かスポットライトをあてるでしょう。
 登場してないキャラ、既に登場してるキャラ、半々といったところです。

 そして、『見習GSアスナ』におけるさよは人形の身体となりました。
 チャチャゼロサイズで朝倉和美の肩に乗っております。
 彼女もこれで修学旅行編に参加できるでしょう。

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