topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.189
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「…………」
「…………」
 沈黙が痛い。
 まさか鈴音がこの時代に来た理由、いや原因が事故だったとは。
 アスナ達はクラスメイトとしてなんとかフォローしてやりたいと思ったが、何を言えばいいのかさっぱり見当がつかなかった。
 横島と令子も似たような経験があるだけに何も言えず、シロはまだ理解が及んでいない様子だ。

「なんとも間の抜けた話やなぁ」
「ちょっ、月詠!?」
 そして月詠は容赦が無かった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.189


「はい、仕切り直しネ!」
 パンと手を叩いた鈴音が、殊更に大きな声で言った。
「フハハハハ! よくぞ見破ったネ!」
 高笑いを上げる鈴音。しかし、その頬は紅い。
「鈴音! あなたの野望もここまでよ!」
「そ、そーだ! そーだ!」
 令子と横島が乗ってあげたのは、親子だからか、それとも同じような経験があるためか。
「え、え〜っと……」
 どちらにせよ問題は、周りがそれについて行けなかった事だろう。鈴音達三人は、失敗したとバツが悪そうな顔になっている。
「とりあえず、三人とも落ち着け」
 千雨が仕切り直し、改めて話をする事にする。

「要するにあれか。鈴音は事故ってこっちに来て、普通に……時間移動? それじゃ帰れないから世界樹の力を借りようとしたって事か」
「あ〜、それはちょっと正確じゃないかナ。本来の世界樹の効果って精神に関わるものに強い性質があるから、世界樹だけじゃ足りないネ」
「それを補うために、コスモプロセッサにしようと……」
「まぁ、そういう事ネ」
「なるほど……じゃあ、フェイトと組んだ理由は?」
「私だけでは『究極の魔体』をモドキでも完成させられなかったネ」
 世界樹をコスモプロセッサにしようとするならば、当然関東魔法協会が妨害してくるだろう。場合によってはGS協会やオカルトGメンも出てくる。
 それらを蹴散らして儀式を遂行するために必要だった手段。それが『究極の魔体』モドキだ。
「……あっ、リョウメンスクナ!」
「そう、それのデータが必要だったネ。一部しか無かったけど、『究極の魔体』モドキを完成させるには十分だったヨ」
 修学旅行後、フェイトの方から接触してきたらしい。麻帆良を調べている際に鈴音の計画をかぎつけたのかもしれない。
 鈴音によると、フェイトの元々の目的はリョウメンスクナを使って麻帆良に攻め込み、世界樹をそのまま奪取する事だったらしい。
 当然タイミングは麻帆良祭の最終日。その計画が実行されていれば、観光客にも多大な被害が出ていただろう。
 鈴音が彼と協力した理由には、彼の計画を進めさせてはまずいという思いもあったようだ。
 逆に言えばフェイトの方も、リョウメンスクナのデータが足りず、一人では儀式を進められなかったのだろう。結局のところ、二人はお互いに利用しあう関係だったようだ。

 ここで千雨がある事に気付いた。
「ん? ちょっと待て。それじゃ鈴音は、フェイトのヤツの目的は知らないのか?」
「さぁ? 聞いた事ないヨ」
「知らないで協力してたの?」
「叶えられる願いはひとつじゃないからネ」
「フェイトが鈴音さんの目的に協力……無さそうね」
「明日菜サン、私が言うのもなんだけど、それはないと思うヨ」
「だよね〜」
 つまり、二人の目的は別だが、コスモプロセッサを作るために協力してたという事である。
「正直、私もあいつは気に入らないけど……」
「それなら、どうして手を組んだアルか?」
「シミュレーションした結果ネ」
「何のシミュレーション?」
 そうアーニャに問われると、鈴音は珍しく逡巡する様子を見せる。
「……『究極の魔体』モドキを使った時と使わなかった時、どっちがより大きな被害が出るかネ」
「それって……」
 つまりは、『究極の魔体』モドキが無くても儀式の遂行は可能だったという事だ。ただし「彼女が手段を選ばなければ」である。
 それは逆天号と同等の兵鬼を作り、儀式を妨害するものを全て容赦なく「排除」するという方法だ。
 『究極の魔体』モドキを使うというのは、妨害をものともせず、排除せずに突き進むため。物騒な手段に見えるが、実のところ極力犠牲を出さずに進めるための方法でもあるのだ。
 鈴音としては、元の時間軸に戻るためとはいえ、必要以上の犠牲は出したくなかったのだろう。
 実のところフェイトに関しては、自分が元の時間軸に戻った後、関東魔法協会あたりか、彼等には無理でもGS協会など他の面々が倒してくれるだろうと考えていた。

「ん……?」
 ここで千雨がある事に気付いた。
「ちょっと待て。フェイトがリョウメンスクナのデータを手に入れたのは4月末だよな? お前、いつから『究極の魔体』モドキの準備をしてたんだ?」
「造り始めたのは二年前だったかナ」
「つまり二年で六体……」
 二年と聞いて令子が唸る。彼女は密かに隠し地下室を造ったりしているため、それがどれだけ凄いかを理解できていた。
 それはすなわち、鈴音の用意した工作機械群の高性能さを表している。
「準備はそれ以前から進めてきたけどネ」
 正確にはそれまで他の場所で準備を進め、それが終わったから世界樹がある麻帆良に来た。二年というのは地下に秘密の工場を造り、『究極の魔体』モドキを組み上げた時間だろう。それでも凄い事には変わりないが。


「……美神殿、これどうするでござるか?」
「…………」
 シロに問い掛けられた令子だったが、こうなってしまうとすぐに答える事ができない。
 この場合、儀式を止めるという事は、鈴音が元の時間軸に戻れない事を意味する。軽く「諦めろ」と言う事もできない。
 神魔族に頼めばなんとかしてくれるかもしれないが、今ここで大丈夫だから儀式を止めろと言い切れるだけの確証は持てなかった。
 口からでまかせで丸め込もうと考えないあたり、彼女もなんだかんだで鈴音を娘として見ているのかもしれない。

「横島君の文珠でなんとかなる?」
「どんな文字入れりゃいいんスか?」
 仮に可能であったとしても、文字数が凄い事になりそうだ。つまり不可能である。
 この時点で、横島達一行の中に鈴音を見捨てるという選択肢は無くなっていた。
「鈴音、もう一個確認だ。コスモプロセッサにした世界樹……元に戻せるのか?」
 横島がそう問い掛けると、鈴音は無言で視線を逸らした。
「……おい」
「いや、世界樹の力を利用するものだから、常時使える訳ではないネ」
「それって、世界樹が光るのと同じ間隔で使えるって事か!?」
 あの世界中で妖怪、魔族を復活させたコスモプロセッサを二十二年に一度使う事ができる。十分だ、コスモプロセッサを巡る争いを起こすには。
 これを防ぐには、それこそ世界樹を切り倒して再利用できなくする必要があるだろう。それ以外の部分は人の手で作る事ができるが、世界樹だけは再現できないのだから。
 横島はハッとなって令子を見た。彼女は無言のままだったが、先程までとは打って変わって何やら雰囲気が怪しい。
 彼女はつつつと鈴音に近付き、彼女の肩にポンと手を置くと、こう言った。
「さぁ、鈴音! あなたを元の時間軸に戻してあげるわ! 私達の手でコスモプロセッサを完成させましょ!」
 それはもう、満面の笑みを浮かべて。
「ちょっと待ったーーーっ!!」
「美神殿ー! それは修羅の道でござるよーーーっ!!」
 すかさず止めに入る横島とシロ。
「そんな事言って、残ったコスモプロセッサを利用するつもりなんでしょ!?」
「きっと美神殿の事だから『世界中の富を』とか言い出すでござるよ! 拙者でも分かるでござる!」
「ぐぬぅ……!」
 二人の勢いに負け、令子は思わず後ずさる。
 それを見たのどかは『いどのえにっき』で心を読む相手を令子に変えようかと思ったが、やっぱり怖かったので止めておいた。賢明である。
 令子の願いはともかく、精神面への影響に限定されていた世界樹と違い、コスモプロセッサは即物的な願いも叶えられる。その気になれば世界の支配者となる事も可能であろう。

「よ、よし、皆落ち着こう。ここでだらだら考えていたら、外でフェイトが儀式を完成させちまうかもしれない」
 仕切り直しを提案したのは、やはり千雨だった。
 彼女もそうだが、アスナ達3−Aの少女達の本音は「鈴音を助けたい」であった。しかし、後に残るコスモプロセッサの影響が大き過ぎる事は、彼女達も理解できる。
「それ以外の方法無いの? 七つの球集めるとか」
「ハルナ、それは大して変わらないんじゃないかな〜」
 しかし、彼女達では他の方法は思いつかない。
「神魔族に頼めばなんとかなるかもしれないけど……」
「つまりは妙神山!?」
 令子のつぶやきを聞き逃さなかったのは月詠。目を輝かせて詰め寄るが、令子は歯切れが悪い。
 アスナ達より神魔族について知っており、横島よりも知識がある彼女は、小竜姫や猿神(ハヌマン)達では、時間軸を越える事はできないだろうと考えていた。超加速が使えるからといって時間移動はできないのだ。
 それこそ鈴音の望みを叶えようとするならば、『キーやん』級の神族の力を借りる必要があるのではないか。そして、それは本当に可能なのか。令子はそう考えていた。
「……ゴメン、『できるかも?』とも言えない」
「まぁ、難しいのは分かるヨ。私も他の可能性を考えた上で、コスモプロセッサ化の道を選んだ訳だし」
 そう言って鈴音が自嘲的な笑みを浮かべたところで、皆黙り込んでしまった。
 理解したのだろう。自分達に残された選択肢は多くない。いや、実質一つしか無い。麻帆良をコスモプロセッサを巡る戦場にしないためには、鈴音に元の時間軸に戻る事を諦めさせるしかないという事を。


 部屋の空気がどんよりと重くなった。
「ねえねえ、鈴りん」
「なにかナ、まき絵」
「未来に戻っても横島さん達はいないんだよね? それじゃあ、こっちで横島さんと暮らしていけばいいんじゃないかな?」
 それを払いのけたのは、今まで黙って話を聞いていたまき絵だった。単に理解できなくて口を挟めなかったのは秘密である。
 ようやく半分ほど理解した彼女は、なんとも能天気な提案を持ち出してきた。
「いや、それは……」
「三年こっちにいたんだから、これからもいたっていいんじゃない?」
「まぁ……」
 今まで神魔族が何も言ってこなかったという事は、ここにいる事自体は問題視されてない可能性は高い。
 しかし、彼女は理解していないのだろう。鈴音にとって元の時間軸に戻る事を諦めるという事は、すなわち故郷を捨てるのと同じである事を。
「よし、妥協点を探ろう!」
 ここですかさず横島が割って入った。
「妥協点? そんなものがあるのかナ?」
 皮肉った笑みを浮かべた鈴音が、挑発するように問い返した。
「表情はあんな感じですけど、内心横島さんと話せて喜んでます」
「本屋、そろそろ止めてくれないかナ!?」
 そして、すぐに心の内を暴かれた。
 横島はそれを微笑ましく思いつつ、それなら説得する余地はあると、今思い付いたばかりのアイデアを話し始める。

「たとえばなんだが……今回はフェイトを止める。そんでもって次回世界樹が光る時までに、後の問題にならないコスモプロセッサ化の方法を用意するというのはどうだろう?」

「……………………はい?」
 間の抜けた声をもらす鈴音。横島はかまわず言葉を続ける。
「もう必要な情報は手に入ったんだろう? がんばってみましたけど、やっぱり無理でしたーって事にしてしまわないか、今回は」
「…………」
 ふらふらとした足取りで後ずさった鈴音は、どさっと椅子に腰を落とした。
 そして腕を組み、顔を伏せて考え込んだかと思うと、天井を仰ぎ、そして首を傾げる。最初は右に、次は左に。
 アスナ達が唖然とした顔で見守る中、その一連の動作を三度ほど繰り返した彼女は、やがてひとつの結論に達した。
「……確かに、それはアリかもしれないネ」
 身も蓋も無かった。しかし、有効だった。
 問題があるとすれば、フェイトを裏切ってしまう事だが、そもそもそこまで仲間意識がある訳ではない。
 あと、次に世界樹が光るのは二十二年後という事だが……。
 鈴音は、チラリと横島の方を見た。
 そもそも彼女は、この時間軸の横島と会うつもりは無かったのだ。あればとうに会いに行っている。
 このまま会わずに元の時間軸に戻ろうと考えていたが、なんの因果か横島の方から麻帆良学園都市に来てしまった。
 そして今、こうして手を差し伸べてくれている。この手を取れば、この先二十二年間共に過ごす事ができる。魔族である鈴音にとっては特に問題の無い時間である。
 これを振り払う事は、鈴音にはできなかった。
 小さくため息をついた鈴音は、立ち上がって横島に近付き、手を差し出す。
「……仕方ない、それで手を打つネ♪」
 横島が手を握り返すと、彼女はニッと笑ってみせた。





つづく


あとがき

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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