topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.193
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「まいったね……」
 塔の上に身を隠していた真名は、崩れ落ちる『究極の魔体』モドキを呆然と眺めながらそうつぶやいた。

 戦闘が始まってからここまで、彼女は点々と場所を変えながら魔法使いとその援軍を狙撃していた。無論、一般人には手出ししていない。
 使用していた弾は、告白阻止にも使われていた麻酔弾。一発食らえば麻帆良祭の間は眠り続けてしまうそれは、彼女の狙撃の腕も相まって猛威を振るった。
 ところがだ、つい先程鈴音から今回の件から手を引くという連絡が入った。
「まいったね……」
 真名はもう一度つぶやいた。
 彼女が鈴音に手を貸したのは、個人的な付き合いがあった縁で雇われたからだ。フェイトの方は、ただの鈴音の協力者に過ぎないが、彼と『究極の魔体』モドキに勝てるイメージが浮かばなかったというのも理由のひとつだった。
 それが今、一人の男の手によって、あの横島の手によって崩れ落ちている。相性の問題もあるが、こうも見事にやられてしまうと感服するしかない。
 鈴音が手を引くのだから、真名としてもこれ以上続ける理由は無い。だからこのまま魔法協会側が勝ってくれるのはありがたい事であった。
 もっとも、その原動力となるのが「あの」横島である事には内心複雑ではあったが。
「まいったね……」
 真名は三度つぶやいた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.193


 塔から下りた真名は、ハカセを回収するために動き出した。ハカセはああ見えても、機械のサポートがあればそれなりに動けるのだが、それでも真名から見れば素人同然だけに心配になってしまったのだ。
 横島が『究極の魔体』モドキへの対処に動いているという事は、鈴音も今はそちらに手一杯だろうと判断した真名なりのアフターサービスでもある。
 今回の儀式におけるハカセの役割は、魔法陣が完成したところで飛行船に乗って世界樹に近付き、儀式魔法を発動させる事だった。だから今は麻帆良にある飛行船の発着場にいて、まだ飛び立っていないはずだ。
 町はまだ魔法使い達でごった返しているが、身を隠して進むぐらい真名には造作もない。
 後はハカセを回収して、事が済んで鈴音が魔法協会と話をつけるまで潜伏すればいいのだが――

「見つけた……♪」

――そうは問屋が卸さなかった。
 見つけたのは紫穂。魔法使い達から麻酔弾の猛威を聞いた紫穂は、放っておくのは危険だと考え、薫と葵を呼び戻して捜索を開始した。
 幸い刀子が斬り払った麻酔弾が一つ残っていたので、紫穂は接触感応能力(サイコメトリー)で情報を引き出し、真名を見つけ出したのだ。
 探し回るのに薫と葵も協力しており、『ザ・チルドレン』の三人がここに揃っている。
「ねーちゃん、ええ乳してるじゃ〜〜〜ん」
 そして薫が、真名を前にして黙っているはずがなかった。
 指をわきわきさせながら近付いてくる少女に、真名は寒気を感じて思わず後ずさった。なんというか、フェイトと『究極の魔体』とは別の意味で恐ろしさを感じてしまった。
「横島より質の悪い、しかも女がいるとは……」
 彼女が思わずそうつぶやいてしまったのも無理のない話である。
 それを聞いた薫は、すぐさま反応を示した。
「ん? 兄ちゃんを知ってんのか?」
「まさか、横島の妹か? どうりで……」
 真名は心の底から納得したが、薫と横島の間に血縁関係が無いのはご存知の通りである。血よりも濃い絆を持つ魂の妹(ソウルシスター)である事は間違いないが。
 ちなみに「横島より質が悪い」と判断したのは、薫がどうこうというよりも、横島が除霊事務所の所長として取り繕う事を覚えたからだったりするのはここだけの話である。
 なお横島には、戸籍上の妹である澪という少女もいるが、もし真名が彼女に会えば、良い子過ぎて別の意味で横島の妹だとは信じられなかっただろう。

 閑話休題。

「てか兄ちゃん、こんな美人と知り合いなのかよ」
「こんな美人の女子大生? 女子高生? どっちにしろ忠夫はんが放っておく訳ないやん」
「…………」
 なんと答えていいか分からず、複雑そうな顔を見せる真名。そんな彼女は女子中学生である。年齢も誤魔化していないはずだ、多分。
 紫穂は接触感応能力で中学生である事を読んでいたのか、彼女を見てにやにやしていた。

 それはともかく、真名は素直に銃から手を放し、両手を挙げた。
 麻酔弾で撃たれた魔法使い達にしてみれば自分勝手な話ではあるが、鈴音がこの件から降りたため、真名もこれ以上戦う理由が無いのだ。
「揉んでいいの!?」
 その殊勝な態度に薫が暴走しかけるが、葵が小突いて止める。
「あ〜、私の雇い主は既に今回の件から降りていてな。私も一抜けだ。これから味方を回収しに行くところなんだ」
「随分と虫のええ話やな。散々暴れまわったって聞いとるで」
「否定はしないさ……手をわきわきさせて寄ってくるな」
 いつもの調子であしらおうとした真名だったが、薫のせいでどうにも調子が狂う。こういうところもそっくりだと彼女が感じたのは言うまでもない。
「それにだ、私の雇い主は、既に横島達と行動を共にしている」
「さっき忠夫はんに会ったけど、それらしい人はおらんかったで?」
「美神令子の方と一緒か、裏方に合流したかのどちらかだろう」
「ふ〜ん、じゃあいいや。行けよ」
「薫ちゃん、いいの?」
「あたしが兄ちゃんより質悪いって分かるなら、ホントに知り合いなんだろ」
「なんやその自虐」
 薫は横島の知り合いならば大丈夫だろうと判断したようだ。真名は本当に兄妹仲が良いのだなと思わず笑みを浮かべる。
「それじゃ行かせてもらうぞ?」
「おう、後で揉ませてくれよな!」
「お兄ちゃんを取られて寂しかったらハグしてやるよ」
「……取られて?」
 薫が首を傾げたが、真名はそれには答えずそのまま駆け出して行った。彼女のちょっとした置き土産である。
「……兄ちゃん、もしかしてこっちでもモテてる?」
「そりゃモテとるやろ。忠夫はんやで?」
「ふふっ、面白い事になってそうね」
 そう言って笑う紫穂だけは真名が中学生である事を把握しているため、女子中学生に囲まれて苦悩する横島の姿を思い浮かべてクスクスと笑っていた。
 そんな三人から離れた場所では、コレットの『月の舟』に乗った横島が、澪の部分テレポートと連携して、二体目の『究極の魔体』モドキを破壊していた。


 一方高畑は、エミと魔鈴が破魔札マシンガンで砲口を塞いでくれたため、有利に戦いを進める事ができていた。
「こんな単純な手で魔法を無効化するとはねぇ……」
 大量の魔封じの札で魔法の発射を阻止する。これは魔法使いでは考えつかない方法だろう。魔法使いにとってこの手の道具は職人がひとつひとつ手作りするものなので大量に使い捨てるという発想が無いのだ。
 なお関西呪術協会はどうなのかというのもあるが、これは相性の問題だ。
 陰陽師の表の顔である陰陽寮に対し、関西呪術協会は表に出せない古い術などを守る組織。そして工業製品のように札を大量生産するというのは、陰陽寮の領分なのである。
 とはいえ、所詮大量生産品は大量生産品。フェイトの魔法を完全に防ぐ事はできないようで、砲口から魔法が放たれようとする度にボフッ、ボフッと何かが破裂するような音が聞こえてくる。内側から札が焼き切れていっているのだ。
 しかしエミと魔鈴がすかさず追加の札を叩き込む。弱い札でも大量に絶やす事なく貼り続ければ魔法の発射を阻止し続ける事ができる。これぞ大量生産品だからこそできる力技である。
 そして魔法が発射されなければ、高畑にはいくらでもやりようがあった。
「まずは腕!」
 居合い拳が『究極の魔体』モドキの右腕に炸裂。その一撃を食らった腕は、千切れこそしなかったものの、一度伸び切った後ダラリと力なく垂れ下がり、そのまま動かなくなった。
 これで防御するのは片腕のみ。生まれた隙を、高畑は見逃さない。
「次は……頭だッ!!」
 渾身の力を込めた居合い拳を一閃。強烈な激突音が辺りに響き渡り、魔体の頭部を吹き飛ばした。
 そのまま動きを止めた魔体はグラリと大きく揺れ、轟音を立てて地面に倒れる。文珠のような完全破壊ではないが、倒す事ができたようだ。

「……何あれ? スーツのおっさんが魔体をブッ壊したワケ」
「いえ、ただのおじさんじゃなくて魔法使い……魔法使い?」
 なお傍からその戦いぶりを見ていたエミと魔鈴は、その破壊力に驚きを隠せなかった。劣化版だと分かっていても、オリジナルを知っているからこその戸惑いであろう。
 GS達のオカルト業界も凄いが、魔法使い達も負けていない。結局のところはそれぞれに得意分野があるという事だろう。

 それはともかく、魔体を一体破壊した高畑は、少し離れたところでもう一体と戦っているリカードに向けて声を張り上げる。
「リカード議員! やはり頭です! フェイトの魂は頭に隠されています!」
「おおっ!」
 その声を聞いたリカードは、すぐさま行動を開始。マリア・テレサ姉妹の援護を受けながら魔体の頭部に飛びつき、そのままパンチのラッシュを叩き込み始めた。
 魔体は手でリカードを排除しようとするが、破魔マシンガンでの援護をテレサに任せたマリアが、それをパワー全開で食い止める。
 その間にもリカードのラッシュは続き、頭部装甲が破壊こそできないものの凸凹にひしゃげ、変形していく。
 その怒涛の攻撃に魔体は膝をつき、そしてついに倒れた。
「フハハハハハ! ビクトリィーッ!!」
「うっわ、えげつなっ!」
 高笑いと共に勝利を宣言するリカード。
 その足元には原形をとどめていない頭部装甲があり、それを見たテレサは汚いものを見たかのような声をあげた。
 おそらく装甲に合わせて内部構造も変形し、中に仕込まれたフェイトの魂が込められたマジックアイテムも潰してしまったのだろう。

 これで破壊された『究極の魔体』モドキは四体。残っているのは、あと一体である。





つづく


あとがき

 『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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