topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.76
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「ねぇねぇ、エヴァちゃん。ちょっといいかな?」
「ん、どうした?」
 テーブルを囲んで侃々諤々と霊能力者になる事について話し合っているアスナ達を「青春してるなー」とどこか他人事で眺めているエヴァの下に、ハルナが駆け寄って来た。
「いや〜、せっかく皆盛り上がってるわけだしさぁ、明日もこの城使わせてもらえないかな〜っと」
「ふむ……」
 チラリとネギ達の方を見てみると、向こうもアスナ達と同じく盛り上がっているようだ。確かにこれは下手に水を差さない方が良いかも知れない。
 流石にいつまでもと言うわけにはいかない。しかし、このままでは夕映は明日学校に行くのも難しいだろう。彼女が動けるようになるまでならば、レーベンスシュルト城を使わせても良いとエヴァは考えた。
 それに、今回はレーベンスシュルト城のお披露目のために皆を呼んだわけだが、ゴールデンウィーク最終日の昼過ぎであったため、クラス全員を揃える事は出来なかった。おそらく、もう数時間遅ければ皆寮に戻っていただろう。ならば、それから全員を集めてパーティをやり直すのも手だ。
「そうだな、とりあえず今日は一旦外に出るぞ。その後、クラスの連中を皆集めて一斉に入る事にしよう」
「皆にお披露目ってわけだね?」
「そう言う事だ」
 理解の早いハルナに満足気に頷くエヴァ。彼女のこの決定により、レーベンスシュルト城お披露目パーティの延長は決定され、アスナ達一同は、一旦外に出た後、クラスメイト全員を揃え、宿泊の準備も整えてから再び集合する事となった。
「数日滞在するのであれば、旅行中の着替えの洗濯、こちらで引き受けましょうか?」
「え、それは流石に悪くない?」
「構いません。マスターの分の洗濯もありますし、城内で干す事も出来ますから」
 茶々丸の言葉に横島達は顔を見合わせた。確かにレーベンスシュルト城内で洗濯してしまえば、外の世界の一時間で洗濯を済ませて乾かす事も出来るだろう。結構量が多いので、こちらで済ませる事が出来るならば楽かも知れない。
「それじゃ、お願いしようかな?」
「私も後程皆さんと一緒に外に出ますので、その後と言う事になりますが」
「分かった。またここに入った後に渡すわ」
「それじゃ、私達もお願いしようかしら……あ、流石に同級生に下着は洗わせられないから、それ以外ね!」
「了解しました。後程お預かりいたします」
 まず最初に横島が、それに続くようにアスナ達も茶々丸の申し出を受ける事にした。皆寮生活で、洗濯などは基本的に自分で行うため、彼女の厚意に甘える事にしたようだ。
 ちなみに、アスナ達は下着だけは寮に持ち帰る事にしたようだが、横島は気にせずに全部渡している。元よりマメに洗濯するタイプではないので、面倒事をやってくれると言うのならば、まとめて任せてしまおうと言う事であろう。茶々丸が引き受けてくれるのであれば、これから先も洗濯物は全て持ってきそうな勢いである。

「ところで、茶々丸の外での用事ってなんだ?」
「ハイ、これからは皆さんがレーベンスシュルト城で修行する事も増えそうですので、必要な設備を揃えに行こうと考えております」
 実は、レーベンスシュルト城は倉庫から出してきたばかりなので、アフリカ大陸にあった頃の19世紀当時の設備しか無いらしい。横島達の洗濯を引き受けた茶々丸だが、その洗濯機もこれから買いに行くそうだ。他にも、レーベンスシュルト城を利用する人数が、これから増えて行きそうなので、業務用の大きな冷蔵庫なども手配しなければならない。
「なるほど、それなら俺も荷物持ちに行ってやるよ」
「……よろしいのですか? 横島さんも宿泊の準備をしなければならないのでは?」
「俺は元々、旅行の荷物の中に予備の普段着を用意してたからな。ぶっちゃけ、皆揃うまでエヴァの家で待っとく気だったし」
「そう言う事でしたら、よろしくお願いします」
 知らなかったとは言え、洗濯を頼んだ身としては、洗濯機を買いに行く茶々丸を手伝わなければならないだろう。横島は自ら荷物持ちを申し出た。
 アスナも一緒に行きたいところだが、彼女は予備の着替えを用意していなかったため、仕方なく皆と一緒に女子寮に戻る事になる。

「夕映。貴様は動けんだろうから、外に出たら、二階の私のベッドで休んでいるといい」
「いいのですか?」
「今更遠慮などするな。暇なら本でも読んでろ、ベッドのすぐ側に本棚がある」
「あ、それならゆえの着替えとかは、私が持ってきてあげるよ」
 動けない夕映は、皆が戻ってくるまでの間はエヴァのベッドを借りて休ませてもらう事になる。宿泊の準備はルームメイトであるハルナが持ってきてくれる事になった。
「私も茶々丸とは別に用があるので出掛けるが、ぷりん達を残して行くから、何かあればあいつらに言えばいい」
「分かりました、お世話になるです」
 寮に帰るにも人の手を借りねばならない状態の夕映は、素直にエヴァの家で待たせてもらう事にする。
 エヴァの部屋には、ベッドのすぐ側に本棚もあるので、皆が戻ってくるまで退屈する事もないだろう。

 ネギ達の方にも、ハルナから再びクラスの皆を集めてパーティをする事が伝えられた。
 豪徳寺達も、どうせ修行をするなら一時間で一日修行が出来るこちらの方が良いと言う事でネギと小太郎が呼びに行く事になる。それと同時に宿泊の準備も進める事となるのだが、ネギはゴールデンウィーク中は麻帆男寮の方に泊まり込んでいたらしく、着替えも向こうで準備する事が出来るそうだ。意外にも、豪徳寺が炊事、掃除、洗濯と、家事全般にマメな性格をしているらしい。
 のどか達は皆、一旦寮に戻って宿泊の準備をする事になり、あやかだけは用があるとかで、寮ではなく家の方に戻る事になった。

 そして、宿泊の準備が必要ない人形のさよは、チャチャゼロに逃がしてもらえず、エヴァの家で皆が戻ってくるのを待つ事になる。
「ソレジャ、外ニ出タラ、シバラク待チダナ。オ前モ付キ合エヤ」
「あ、私はちょっと時間がズレますから、外で待っててくださ〜い」
 外では動く事が出来ないチャチャゼロは、さよを皆を待つ間の話し相手とするようだ。
 肩を組まれるさよの声には、物騒な殺戮人形であるチャチャゼロに怯えた様子もない。意外にもこの二人の仲は上手く行っているようだ。もしかしたら、純粋に友達が増えた事を嬉しがるさよに、チャチャゼロの方が毒気を抜かれてしまったのかも知れない。
 とりあえず、チャチャゼロの方も、新しい妹分であるさよを気に入っている事は確かなようだ。

「それじゃ、別荘出るまでの数時間はどうしましょうか?」
 アスナが横島に尋ねる。出来る事ならば残りの時間も横島と共に過ごしたいところではあるが、修行をするにも少々中途半端な時間だ。
 どうしようかとアスナが悩んでいると、あやかがにっこりと微笑みながら近付いて来た。
「アスナさん、時間があると言うのならネギ先生も居る事ですし、特別補習と行きましょうか?」
「いぃっ!?」
「あ、それはいいですね〜」
 なんと、あやかはここでゴールデンウィークまでの授業の復習をしようと言い出したのだ。
 六女受験を控えているアスナのためである事は言うまでもないのだが、魔法使いの城、レーベンスシュルト城まで追い掛けてきた現実にアスナはたじろいてしまう。迫るあやかにじりじりと後ずさるが、ネギも乗り気になってその退路を断ってしまった。
「げっ、面倒やん。皆で修行しようや〜。俺等はまだ半日ぐらいあるんやろ?」
「後数時間だし、修行はまた後でね。それにコタロー君だって明日から学校じゃない」
「ぐっ……」
 痛い所を突かれて小太郎は押し黙ってしまった。彼も明日から麻帆良学園初等部に編入される事が決まっている。
「それに、このままだとコタロー君もバカレンジャー予備軍だよ?」
「なんやねん、バカレンジャーて」
 小太郎は「バカレンジャー」が何なのかは分からなかったが、あまり良い意味ではなさそうだ。
 今までほとんど学校に行っていなかったため、授業について行けるかどうか不安な面があるのも事実なので仕方なく小太郎も頷き、あやかの提案通りにレーベンスシュルト城から出るまでの残りの数時間は、皆で勉強会を開く事になった。

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 入った時間が違うため、出る時間が少しズレる事になる木乃香、刹那、風香、史伽、あやか、和美、さよ、のどか、ネギ、小太郎、そしてチャチャゼロ、ぷりん、あめ子を城に残し、エヴァ一行は城の外に出た。
 実は、24時間以上過ごせば出る時間はある程度融通が効くため、アスナ達も木乃香達の時間に合わせて出る事も可能なのだが、そのまま残ると勉強会が続きそうだったため、逃げるようにして出てきたのだ。チャチャゼロだけがさよと一緒に出るために城に残っている。
 エヴァの家で待つ事になっている夕映は、すらむぃを頭の上に乗せた横島が抱き上げて二階のベッドまで運ぶ。エヴァは結構大きめのベッドを使っているので、すらむぃはベッドの上で夕映と共に皆が戻ってくるのを待つそうだ。
「それじゃ、私達は寮に戻って宿泊準備が済んだらすぐに戻ってきますね」
「私達は食材の仕入れネ」
 宿泊の準備のために女子寮に戻る面々の内、アスナと古菲がすぐにエヴァの家に戻るそうだ。また、超一味はパーティー用の食材の買い出しに行き、残りの面々が、まだ戻って来ていない者達を待つらしい。そして、エヴァもまた一人で出掛けてしまった。
 横島と茶々丸は皆を見送った後、茶々丸が街に出るためにメイド服から普段着に着替えて、二人で買い物に行く事にする。
「ところで茶々丸、洗濯機はともかく、業務用の冷蔵庫なんてどこに売ってるんだ?」
「それについては『超包子(チャオパオズ)』で手配してもらう事になっています。これから買いに行くのは皆さんで使うタオルなどです。それに日用品も色々と必要になるでしょう。超さんも今日は店で使用している調理器具を持ち込むと言っていましたが、彼女達がいない時のために、こちらでも一式揃えなければなりません」
「それと洗濯機か」
 横島の言葉に茶々丸はコクリと頷いた。3−Aだけでも三十一人、ネギ達が六人、それに高音と愛衣が来る事もあるかも知れないと考えると、大量の荷物になりそうだ。茶々丸なら平気かも知れないが、横島も男として張り切って荷物持ちしなければなるまい。
「別荘を出した際にも使用した店がありますので、ご案内します」
 そう言うと茶々丸は横島と腕を組み、ぴとっと身体を寄せてきた。
 二人の身長はさほど変わらないため、横島の顔のすぐ真横に茶々丸の端整な顔が並ぶ事になる。
「あ、あの、茶々丸さん? 何をしているんでせうか!?」
「横島さんが、迷子にならないようにと思いまして」
「………」
「………」
「そーっスね! これなら安心っスよね! さぁ、行こう明日に向かって!」
「はい、こちらです。行きましょう」
 迷子などと、流石の横島もそこまで言われる程ではないと思うが、彼にはそんな事など関係がなかった。
 密着する茶々丸の新しいやわらかボディを堪能しながら、元気よく街へ繰り出して行く。茶々丸と手を組んでいなければ、それこそスキップでも始めそうな勢いである。

 茶々丸に案内されて辿り着いたのは、麻帆良の駅前から少し離れた街中にあるホームセンターだった。大きな駐車場の混み具合を見るに、ゴールデンウィーク最終日と言う事もあり客は大勢いるようだ。
 免許が無い横島達は車どころか自転車も使わず徒歩でここまで来たが、道中はずっと二人で腕を組んでいたので、横島としては望むところである。
 横島はホームセンターの店舗を見上げながら、ふと思った。エヴァには似合わないと。
「エヴァもこう言うとこ利用するんだなぁ」
「マスター自身の物については麻帆良に来る以前から持っていた物が多いのですが、こちらに来てからの物となりますと、その費用は学園長の負担となりますので……」
 そう言って少し視線を伏せる茶々丸。どうやら彼女が気を使って安く済むように立ち回っているらしい。エヴァは機械全般に弱いため、特に電化製品に関しては麻帆良工学部や『超包子』のルートを使ったり、このようなホームセンターを利用する事が多いそうだ。
 学園長の負担になり過ぎないように、かつエヴァも満足させる。茶々丸も色々と苦労しているらしい。
 もっとも、最近はエヴァ自身が文献調査のために別荘に入り浸り、またヘルマン一味との戦いの際にはクラスメイトを匿ったりした事で食費が爆発的に膨れ上がっているそうだが。
「それじゃ、どこから見て行く?」
「洗濯機は最後にしましょう。ここはその場で商品を受け取れますので」
「なるほど、洗濯機持って店回るのも重いだろうしな」
 大型家電でも担いで帰れる力がある茶々丸ならではの方法であろう。
 今回は荷物持ちとしてついて来た横島、男として良い所を見せるためにも逃げるわけにはいかない。除霊助手だった頃は大きなリュックを背負って除霊道具やその他諸々を運んできたのだ。洗濯機の一つや二つ、背負って見せるしかあるまい。
 多くの商品が入れられるショッピングカートを取り、それを押しながら店内に入って行く二人。茶々丸は自分がカートを押すと申し出たが、力仕事は男の仕事だと横島が譲らない。男のプライドと言うのもあるが、彼女がカートを押す事になれば、商品を手に取るのは横島と言う事になってしまう。彼にはどんな商品を選べば良いのかが分からないので、交代する事になっても困ってしまうのだ。
 茶々丸もそう強く言われては引き下がるしかなく、カートを押す横島に寄り添うようにして店内を進んで行った。グリップを握る横島の右手に、そっと自分の左手を重ねる事が、彼女なりのささやかな抵抗なのだろう。
 まず、二人は泊まりに来た皆が使う生活用品売り場へと向かった。手馴れた手付きで次々に商品をカートに入れていく茶々丸。一見適当に放り込んでいるようにも見えるが、カートの中の商品を見てみると、タオルや石鹸などは天然素材の物にこだわっているようだ。おそらく、その辺りもエヴァの好みなのだろう。花粉症にもなると言う話だし、意外とデリケートなのかも知れない。
 続けて二人は調理器具と食器を探しに行く。エヴァの家にも、別荘にも一式揃っているそうだが、いちいち運ぶのが手間なので、レーベンスシュルト城にも揃えてしまうそうだ。
「電子レンジとかも買うのか?」
「オーブン機能も付いている物ならば必要かもしれませんが、レーベンスシュルト城の厨房には、煉瓦窯が備え付けられていますので、緊急ではありません」
「そんなもんまであるんかい……いや、城ならそれぐらい当然なのか?」
「あまり使われてはいなかったようです。マスターが食事に拘るようになったのは、麻帆良に幽閉されてからの話だそうですし」
「ああ、食い道楽になったのは麻帆良に閉じ込められてからって話だったな」
 ちなみに、調理器具だけでなく洗濯機などにも使用する電気の工事等は、既にハカセが終わらせている。あの地下室にレーベンスシュルト城を設置し、茶々丸が横島達を駅まで迎えに行って帰ってくるまでの数時間――レーベンスシュルト城内での数日間――を使って、その辺りの作業は済ませてしまっていた。麻帆良大学工学部が誇る作業用ロボットの力を借りての事だが、彼女も超に負けず劣らず有能である。
「他に調理器具と言うと、ガスコンロとか……いや、昨日料理してたわけだし、もうあるのか?」
「ハイ、電気工事を行うと同時に、『超包子』でも使用されている業務用の物を設置してあります」
「そりゃまた豪快な……となると、あとは洗濯機か?」
「そうですね。これから大勢の人がレーベンスシュルト城を利用する事になりそうですから、大型の物が必要になります」
「おぅ、ドンと来いだ!」
「あの、荷物持ちなら私が……」
 おずおずと口を挟もうとする茶々丸だったが、横島はやはり自分が洗濯機を持つと言って譲らなかった。
「……他にも荷物はありますし、こちらは私が引き受けます」
「ああ、持ち切れない分は頼むわ」
 横島がどうしても洗濯機は自分が持つと言うのであれば、茶々丸はそれ以外を持とうと考えたが、彼はそちらについても持てる限り持つらしい。茶々丸は申し訳ないとオロオロしていたが、横島にそう言われてしまうと強く出る事が出来ずに、結局はその厚意に甘える事となる。
 家電売り場へ向かい、洗濯機が並ぶ通路に辿り着いた二人。しかし、横島はその種類の多さに圧倒されてしまい、どれを買えば良いのかがさっぱり分からない。
 思えば、一人暮らしをしていた頃は家に洗濯機すらなく、溜め込むだけ溜め込んでからコインランドリーに持って行っていた。独立してからも、基本的に同居人に頼りっぱなしで、自分で洗濯はしていなかったのだ。
 この横島忠夫と言う男、確かに両親がナルニアに転勤して以来、一人暮らししていた事もあり生活力はそれなりにあるのだが、だからと言って家事が得意と言うわけではないのだ。
 前述の通り洗濯はほとんどせず、料理も「男の手料理!」と声高に力説しそうな、腹さえ膨れればそれで良いと言う簡単なものしか出来なかったりする。掃除に関しても、ヘルマン一味が麻帆良を襲撃した際に千鶴達を意外と小綺麗な自室へと招待したが、これは、昼は学校、夕方はアスナ達と修行、夜は古菲と警備の仕事に駆け回っており、寮の部屋で過ごす事が少なかったためだ。食事に関しても、独立して以来懐具合に余裕がある事と、麻帆良は学食が充実している事もあって外食で済ませる事が多く、おのずと自室で出るゴミの量が減ったと言うのも理由の一つであろう。
 この場合、「生活力」と言う言葉は、文字通り「生活する力」と言うよりも「劣悪な環境でも生き延びる力」すなわち「サバイバビリティ」に置き換えた方が正確なのかも知れない。
「え〜っと、俺にゃ良く分からんのだが、乾燥機付きの方がいいんだよな?」
「お客様、何かお探しでしょうか?」
 大きなカートに商品を山積みにした横島達を見てチャンスだと思ったのか、ニコニコと笑みを浮かべた店員が駆け寄って来た。目的は一目瞭然だが、洗濯機を買う事は確定事項なので、渡りに船とばかりに相談に乗ってもらう事にする。
「あー、洗濯機を探してるんだけど、どれが良いのか分からなくて」
「なるほどなるほど。それにしても可愛らしい奥様で。麻帆良で新生活、始められるのですか?」
「なななナな、何をおっしゃる、うさぎさん」
「真顔でうろたえるな」
 店員の言葉にものの見事にうろたえる茶々丸。落ち着かせるべく、横島は彼女の後頭部にチョップを食らわせた。
 それにしても、美智恵もそうだったのだが、新しいボディになった茶々丸はパッと見ただけでは人間ではなく機械仕掛けの身体である事が本当に分からない。耳の部分にアンテナが付いているが、それ以外があまりにも人間にそっくりなため、それすらも変わったアクセサリーに見えてしまうのだ。
「洗濯機でしたら、こちらの最新の斜めドラム型はいかがでしょう? 洗濯から乾燥までこれ一台にお任せです」
 誤解を解く間もなく、店員は商品の紹介を始めてしまう。にこやかな笑顔だが、せっかくの客を逃がすまいと言う気迫が伝わってくるかのようだ。
「茶々丸、頼む。俺はこの辺はさっぱり分からん」
「了解しました」
 横島は店員の説明を聞いてもよく分からないため、茶々丸が店員の相手をする事になる。
「大量の衣類を洗濯する事になりそうですので、洗濯容量の多い物が良いのですが」
「おやおや、大家族ですか? これは気が早い。それならば、こちらはいかがでしょう。低騒音で除菌乾燥も出来る優れ物です」
 茶々丸は紹介された洗濯機のスペックを確認し、これならば問題は無いと判断したようだ。振り向いて横島に「どうでしょうか?」と問い掛ける。問われた横島も、少々大きめではあるが、これならば背負えると判断した。
「それでは、こちらの洗濯機をお願いします。このまま持ち帰りますので」
「お買い上げありがとうございます! それでは、レジの方までご案内いたします!」
 店員は喜々とした様子で他の店員を呼び寄せて何事かを指示すると、横島達二人をレジまで案内する。一行がレジに到着すると、丁度台車に乗った洗濯機の入ったダンボールが運ばれてきたところだった。倉庫の方から在庫を運んで来たらしい。
 茶々丸が支払いを済ませている間に、横島は店員達に洗濯機を店外へと運んでもらう。
「お客様、お車はどちらに?」
「いえ、徒歩っスから」
「………は?」
 そして、呆気に取られる店員達を他所に、横島はロープを取り出すと、手馴れた手付きで即席の背負い紐を作ると、そのまま洗濯機を背負ってしまった。更に茶々丸がカートを押して出てくると、調理器具なども引き受ける。
 結局、茶々丸の荷物はタオルやバスローブぐらいで、片手で持てる程度しか残されていない。横島の方も調理器具は片手で持てたので、店員達にカートを戻しておいてもらえるよう頼み、そのまま二人で手を繋いで帰路に着くのだった。


 横島達がエヴァの家に戻ると、既にアスナ達が宿泊の準備を終えて戻っていた。先程までのメンバーに加えて、風香により電話で呼び戻された楓と、先程は面倒臭がって部屋から出てこなかった千雨の二人が増えている。千雨は部屋に居るところを強引に連れ出されたらしく、若干機嫌が悪い。
 ネギも豪徳寺達を連れて来たらしいが、皆揃っていなかったため、森に入って修行をしているそうだ。相変わらず熱血している。
 あとは桜子、美砂、円の三人が揃えば全員集合だが、彼女達は街に出掛けていたらしく、こちらへの到着にはもう少し時間が掛かるだろう。
 そして、肝心のエヴァもまだ戻ってきていなかった。茶々丸も、彼女の用事が何なのか聞かされていないため、どこかで何かをしでかしているのではないかと、心配そうな様子である。
「よ、横島さん、大丈夫なんですか?」
「何が?」
 横島を出迎えたアスナ達は、まず彼が背負う大きな段ボール箱を見て目を丸くした。しかし、横島にとっては除霊助手時代の荷物持ちで慣れたものであるため、やはり彼女達が何を驚いているのかが理解出来ない。
 二階の夕映の下にはチャチャゼロ達や、アキラ達が居るそうなので、横島は一階のリビングでアスナ達と共に、茶々丸が淹れてくれた紅茶を飲みながらエヴァの帰りを待たせてもらう事にする。横島の向かいのソファに座る千雨も、憮然とした表情のままティーカップを手に取った。半ば強引に連れてこられた彼女だったが、ヘルマン一味が襲撃してきた時のような危険があるわけでもなく、ただパーティーをするだけと聞いているので、今の内に勝手に帰ってしまうつもりはないようだ。
 それから三十分ほどしてから桜子達三人が到着し、エヴァが帰宅したのは、その更に三十分後だった。
「おっ、エヴァも帰って……って、おい」
 一同の視線がリビングに入って来たエヴァの方に向き、一斉に目を丸くして驚きの表情に変わる。
 なんと、エヴァはもう一人の人物を連れて二人で帰ってきていたのだ。
「ホッホッホッ、ワシもご相伴に預かる事になったぞい」
「学園長!」
「おじいちゃんっ!?」
 横島だけでなく、木乃香も驚きの声を上げる。そう、エヴァが連れて来たのは、麻帆良学園の学園長にして関東魔法協会の長、そして木乃香の祖父である近衛近右衛門であった。
 アスナ達は複雑な表情をして互いに顔を見合わせていた。それも仕方のない事だろう。横島を含むアスナ達3−Aの面々は、「ネギが魔法使いである事を知り、関東魔法協会の存在を知りながら、それを関東魔法協会に隠している」、それに対し、学園長は「アスナ達が魔法使いの存在を知っている事を知りながら、それをアスナ達に隠している」。そう、互いに知られては不味い秘密を持つ関係なのだ。もっとも、エヴァや横島などには既知のことであるが。
 その両者が魔法使いであるエヴァの家で顔を合わせてしまった。しかも、これから魔法によってボトルの中に納められたレーベンスシュルト城のパーティーに参加する事になると言う。これで戸惑うなと言うのは無体な話であろう。
「……エヴァ、どう言うつもりだ?」
「いつまでも歪な関係続けるより、すっぱりバラした方が楽だろ」
「そりゃそうかも知れんが……」
「それに、他にも問題が浮上してな」
「問題?」
 その横島の問いには、エヴァではなく学園長が答えた。
「君達が京都の修学旅行から帰って来た辺りからエヴァの使う食費の額が跳ね上がってのぅ
「あー、それでエヴァを呼び出したんですか?」
「いや、本人から来たんじゃ」
「それで、俺達の話を聞いたと」
「そう言う事じゃ」
 その話を聞いて横島は納得した。
 修学旅行から帰って以来、エヴァは京都から持ち帰った文献の調査のために、学校の時間以外は別荘に篭っていた。それこそ、一日が十日以上になる勢いで。中学卒業までと言う限られた時間を有効に使うためにそうしていたのだが、それは同時に、一日で十日分以上の食費が掛かる事になる。更にヘルマン一味が襲撃してきた際には、アスナ達を一週間別荘に匿っているのだから尚更であろう。
 エヴァは、修学旅行から帰ってから今日までに、既に数ヶ月分の食費を使った事になる。
 そこまで話を聞いて、横島はエヴァが何故学園長をここに連れて来たのかを理解した。
「その辺、全部ワシのポケットマネーから出とるんじゃよ。流石にキツくてのぅ」
「あ、あはははは……」
 溜め息混じりに話す学園長に、アスナ達は乾いた笑みを浮かべながら冷や汗を垂らした。彼女達も多かれ少なかれエヴァの別荘では世話になっているので他人事ではない。彼女達の体感時間における昨日に、レーベンスシュルト城でパーティーをしていたところだ。
 真っ先にエヴァの言わんとしている事に気付いたのは、意外にも千雨であった。
「つまり、お互い秘密にしてるって事をバラしちまえば……」
「冴えているぞ、長谷川千雨。魔法公開の前準備、テストケースと言う事で、関東魔法協会の方で予算が組めるのではないかと、この私がアドバイスしてやったと言うわけだ」
「詭弁のような気もするが、それに近い状態になっておる事は確かじゃしのぅ」
 つまり、エヴァの家での3−Aの面々の交流を、魔法使いが正体を明かして一般人と交流するテストケースとし、それに掛かる経費と言う事にして、エヴァの生活費を関東魔法協会の予算で支払ってしまおうと言うのだ。
 レーベンスシュルト城が皆の修行場として使われるようになると、食費などは跳ね上がってしまうだろう。現に今日も洗濯機等を買うために結構な金額を使っている。
 エヴァが『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』の呪いを掛けられて、麻帆良に幽閉される破目になったのは、学園長がネギの父『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』に警備員が欲しいとぼやいた事にも原因の一端がある。
 そのため、彼女が麻帆良に居る間は、生活費一切の面倒を見ていたのだが、彼女が大勢の客を招くようになって金額が跳ね上がっていくようになると、流石にポケットマネーだけでは賄い切れなくなってきた。
 とは言え、今までクラスメイトにもろくに心を開いていなかったエヴァが、クラスメイトを家に招き入れ、昼休みには友人達と一緒にお弁当を開いている姿を見て、金が掛かるから止めろとは言えない。どうするべきかと迷っているところに、当のエヴァがやって来たと言うわけだ。
 エヴァ自身も自分以外のための食費が増えてきた事は自覚している。そこで彼女は、学園長に助け船を出してやるために、自分の家の現状を彼に伝えた。更に、一般人との交流のテストケースとしたらどうだと提案し、学園長もそれに頷いたため、こうしてここに連れて来て現在に至る。
 もう片方の当事者であるアスナ達にはエヴァからの相談もなく完全な不意打ちであったが、自分達がエヴァの別荘やレーベンスシュルト城に泊まる事により発生した食費が原因であるため、ぐうの音も出ない。

「が、学園長! どうしてここに!?」
 そこにネギ達が戻って来た。ネギは学園長の姿を見て、自分が魔法使いである事を皆に知られている事がバレてしまったと思い、オコジョにされてしまうのではないかと震えていたが、学園長は、安心しなさいと、笑ってネギの肩を叩く。
「全員揃っているようだな。ならばレーベンスシュルト城に入るとしよう、細かい話は向こうでするといい」
 突然の学園長の登場におたおたしてるネギをよそに、エヴァは皆を地下室へと案内する。全員揃ったため、まだ見ていない千雨達に、早くレーベンスシュルト城をお披露目したいようだ。
 二階に上がる時は横島に運ばれた夕映だったが、彼は洗濯機を運ばねばならないため、アキラに背負ってもらい地下室へと向かう。横島が持って帰って来た調理器具等はアスナと古菲で手分けして運んで行った。
 ネギも小太郎達に肩を叩かれながら、がっくりと肩を落としたまま、地下室へと向かい、学園長はそれを人の悪い笑みを浮かべながら見送っている。
 アスナ達が地下室に向かう中、横島が一旦降ろしていた洗濯機の段ボール箱を再び背負おうとしていると、学園長がそっと横島に近付いて来た。
「横島君、実はそろそろネギ君に魔法先生の存在を知らせても良いのではないかと言う話が出ておるんじゃよ」
「ヘルマンを倒せたからっスか?」
 横島の言葉に学園長はコクリと頷いた。
 知っての通り、これまでネギには関東魔法協会に属する他の魔法先生、生徒の存在は知らされていなかった。いざと言う時にすぐに大人を頼らず、自分の力で皆と肩を並べられるようになるまで、陰から見守っていたのだ。
「そういや、ネギのヤツ、高音と愛衣ちゃんの事を知っても何も言わんかったな。ヘルマンとの戦い控えてそれどころじゃなかったのかも知れんが」
「そのヘルマンを倒せるだけの力を身に着けたのならば、そろそろ知らせてもいいんじゃないかと言うわけじゃな」
「……その話はガンドル先生から? それとも、弐集院先生から?」
「惜しいのぅ、その両方からじゃよ」
 親馬鹿、子煩悩で知られる男親教師二人からの意見らしい。あの二人は以前からネギの事を気に掛けていたので、ネギがヘルマンを倒したと言うのは、正に渡りに船なのだろう。
 そして、渡りに船と言うのは学園長にとっても同じであった。魔法先生の存在をネギに知らせる事と、3−Aの面々を魔法使いと一般人の交流のテストケースとする事を同時に話を進められるからだ。
 特に魔法先生の一人である明石教授は、娘の裕奈が3−Aの生徒なので両方の当事者となる。学園長としては、何とか彼を味方につけて、予算を確保したいところである。
「ところで、明石教授の事は……」
「ああ、勿論裕奈にゃ秘密にしてますよ」
 明石教授が魔法使いである事は、本人が伝えるべきだと横島は考えていた。
 裕奈は横島を「横島兄ちゃん」と呼び、彼にとっても裕奈は可愛い妹分なのだが、こればかりは話すわけにはいかない。
「ただ、霊能力者の資質あるか調べてくれって言われて調べたところ、普通の人より霊力が高い事が分かって、本当に霊能力者になるのか、将来に関わる事だからよく考えろって言ったんで」
「うーむ、そりゃ確かに将来に関わるのぅ」
 彼女は今、自分が霊能力者になるかどうかで悩んでいるのだろうが、実は父親の跡を継いで魔法使いを目指すと言う道もあるのだ。
 しかし、裕奈は自分の父親が魔法使いである事を知らない。最終的な結論を出すにも、まず父親としっかり話し、霊能力者になるか、魔法使いになるか、それとも別の道を目指すのかを考えねばなるまい。
「ま、その話は後で明石君に伝えるとして、今は伏せておくべきじゃろうな」
「やっぱ、明石教授から伝えないと不味いでしょうね」
 理由があったにせよ、今まで秘密にしていた事は確かなのだ。
 他人から聞くのと、父親から直接聞くのとでは、裕奈の印象も変わってくるだろう。
「……いっそ、ここに呼んでしまおうか?」
「それはエヴァに聞いてからの方がいいんじゃ?」
 そう言って懐から携帯電話を取り出した学園長だったが、横島の言う通りである。ここはエヴァの家なのだ。明石教授を呼ぶにも、まずエヴァの許可を取らねばならないだろう。学園長は「それもそうじゃの」と頷くと、携帯を仕舞って地下室へと向かった。
 横島も、よいしょと洗濯機を背負ってその後を追う。
「うおっ!?」
「む、どうかしたかの?」
「いや、段ボール箱が引っ掛かったみたいです」
 しかし、大きな段ボール箱が扉を潜ろうとしたところで引っ掛かってしまった。
「ああ、こりゃ向きを変えねば通らんのぅ」
「まいったな、豪徳寺でも呼ぶか」
「いや、この程度ならワシに任せなさい」
 そう言って学園長は魔法を使い、いとも容易く洗濯機の入った段ボール箱を浮かせる。この家には魔法使いの事情を知る者しかいないため、魔法を使う学園長も気楽なものだ。
「では、行くとするかの」
 事もなげにそう言うと、学園長は歩き出す。
 重かった段ボール箱が風船のように浮かび上がった事に呆気に取られていた横島は、ハッと我に返ると背負い紐を外す。段ボール箱はそのまま学園長の後をついて行くかのように動き出し、横島も慌ててその後ろから付いて行った。
 しかし、よく見てみると、ふわふわと危なっかしい。今にも壁にぶつかりそうだ。
 横島は壁などを傷付けないようにフォローしながら、段ボール箱の後を付いて行くのだった。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城は原作の表現を元にオリジナル要素を加えて書いております。
 『見習GSアスナ』における犬上小太郎は小学生です。また、原作とは異なり本名のままで学校に編入しています。

 新しいボディの茶々丸は人間と見分けがつかない。
 豪徳寺が炊事、掃除、洗濯と、家事全般にマメな性格をしている。
 エヴァが天然素材にこだわっている。
 横島が一人暮らしの頃はコインランドリーを使用していた。

 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。ご了承下さい。

 また、麻帆良学園都市にホームセンターがあると言うのも、一応独自設定となります。原作に登場していませんので。
 学園長が物を浮かせる魔法を使った事も原作ではありませんが、単行本1巻でネギがのどかを浮かせていますし、17巻では学園長本人が浮いているので、多分原作でも使えると考えても問題は無いでしょう。

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