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 絶対可憐にワイルドに 3


「結局言われるままに着替えたけど、何これ?」
「B.A.B.E.L.の特務エスパーの制服だよ。今は黙ってそれを着ていてくれ」
 そう言いつつも機嫌の悪い皆本。
 対する特務エスパーの制服を身に纏ったタマモは、相変わらずきつねうどんを食べている。
「Gメンでバイトした時も似たようなの着せられたけど…あんたら揃って制服フェチってヤツ?
「人聞きの悪い事言うなっ!!」
「そうは言うけど、Gメンのより短くてヒラヒラして…狙ってんじゃないの」
「生憎、それは特務エスパー自身が決めた物だ」
「へ〜…」
 憮然とした皆本の言葉を聞いてタマモはチラリと三人の少女達へ視線を向けるが、薫だけが視線を逸らして口笛を吹く。分かり易過ぎだ。
 これが葵や紫穂ならば「かわいいから」と言う理由が成り立つかも知れないが、薫ならばその目的は男と大して変わらないだろうとタマモは判断する。

「…あんま頻繁に見せてると、価値下がるわよ
「ぐはっ!」
 しれっと言い放つタマモに、何故かダメージを受ける薫。葵と紫穂も思わず顔を赤くしてスカートを手で押さえる。
「あんたらも、まだまだねぇ…」
 皆本から見れば「憎たらしい笑み」を浮かべてチッチッチッと指を振るタマモ。彼女に言わせれば、薫の考え方は甘いようだ。
「いい、『見せる』じゃなくて『魅せる』よ。ギリギリで見えないぐらいの方が、かえって男を惑わす事ができるんだから」
「そ、そうだったのか…!」
 感銘を受けたのか、膝をついて涙を流している薫。葵も熱心に聞き入り、紫穂も一見してはわからないが納得しているようだ、感心したような目をタマモに向けている。
 皆本のタマモに対する第一印象は「なんとも行儀の悪い子」だった。今もラフに胡坐をかいて椅子に座っている。もし、彼女が自分の担当する特務エスパーであれば、すぐに叱り付けていただろう。
 だが、彼女の言葉を踏まえて改めて見てみると、その印象は変わってくる。
 一見無防備にふるまっている様に見えながら、その実全くと言って良い程隙を見せていないのだ。
 傍目には中学生になったかどうかの年頃だが、タマモと言う少女は自分の手には負えない。そう感じて肩を震わせたのは皆本だけでなく、その場にいた大の大人達全員だったであろう。
 そしてタマモは、そんな男達の心を見透かすように、にっこりと微笑んだ。

 皆本としては一つ二つ言い返してやりたいところなのだが、タマモがB.A.B.E.L.の制服を着ているのは、他ならぬB.A.B.E.L.の都合であるため、あまり強く出る事ができない。
 と言うのも、桐壺が強引に推し進めたから実現したとは言え、本来超能力研究機関であるB.A.B.E.L.は、オカルトの手を借りるわけにはいかないのだ。
 そのため、今回もあくまで「B.A.B.E.L.が中心となり、主導している」と言い張るために、横島には皆本と同じようなスーツを、タマモには特務エスパーの制服を着てもらっているのである。
 何と融通が利かないのかと思わなくもないが、科学そのものが似たような物だ。皆本は自分がタマモにからかわれるくらいで対外的な面子が保てると言うなら安い物だと半分諦めていた。

「う〜、にいちゃん達大丈夫かな〜」
 そんな大人の面子には一切関わりの無い子供達は暢気だ。念動能力(サイコキネシス)でこちらに残っている装甲車の屋根の上に登り、屋敷の方を眺めている。
「ま、横島はんなら心配ないやろ」
「ナオミさんも安心ね、彼女がどうにかなるとすれば、それは横島さんより後の事よ。きっと良い格好して見せようとして庇うから」
 心配そうな薫に対して、葵と紫穂はそれぞれ屈託なく笑い、そして怪しく微笑んで返した。どちらがどちらかは気にしてはいけない。

「となると、心配なんは局長か?」
「…そうね、好奇心は猫を殺すって言うし」
「はいそこ、物騒な話はやめておけ」
 会話の内容が危険な方向に進んできたので、皆本が子供達の会話に待ったをかけるのだった。



「…変だな」
 一方、屋敷内部に侵入している横島は、二階に続く階段の前に訝しげな表情を見せていた。
「横島さん、どうかしたんですか?」
「いや、悪霊の位置が掴めない」
「君はそういうのも分かるのかネ?」
 ナオミを押しのけて桐壺が身を乗り出してきた。横島の能力を知る機会は一つでも逃したくないのだろう。
 実際のところ、横島は桐壺が考えているほど正確に探知、すなわち霊視ができるわけではない。相手が遠くであれば、どの方向にいるかいないか、近ければ存在の有無がわかる程度でしかないのだ。しかも、相手が強い力を持っていなければ感知する事ができないので、超感覚を持つタマモ、シロはおろか、見鬼君にも敵わないだろう。
 霊視と言うよりも、嫌な予感を感じていると表現した方が正確だろう。

 今回のような悪霊が相手の場合、それこそ存在をぼやけて感じる事ができる程度なのだが、今の横島は何故か悪霊の存在を全く感じないのだ。
「なんでか、この屋敷に悪霊がいるって感じがしない」
「え、でも…」
「そうなんだよなぁ」
 そう言って三人はすぐ傍にある玄関の扉に視線を向けた。そのすぐ外で物が飛び交っている事が音でわかる。
 ここに何かが存在している事は間違いない。
「…とりあえず、例の部屋に行ってみるしかないか」
 横島の言葉にナオミと桐壺が頷いた。
 正直なところ、横島は好き好んでリアルミイラなど見に行きたくはないのだが、ナオミを前にして「恐いんで、部屋の外で待ってます」とは言えない。
 格好悪いところを見せたくないのか、逆に情けないところを見せて怒らせるのが恐いのか、横島自身どちらなのかよくわかっていなかった。

 「叱られたい」という願望も心の奥底にあったりするのは横島だけの秘密である。



 一方、今回の除霊では蚊帳の外となっているオカルトGメン。
 しかし、美智恵はB.A.B.E.L.が秘密裏に横島に依頼し、既に除霊作業に入っている事を知っていた。そして、その事に注目していたのは彼女だけではなかったらしい。
「『ナメた真似を許すな』ですって」
「書類一枚を九文字に略さないでください、乱暴に要約し過ぎです」
 オカルトGメン上層部から送られてきた書類を手に、西条は冷や汗を垂らした。
 美智恵は「素人の分際で…」と椅子に背を預けて、身を沈める。その書類によれば、今回の一件はB.A.B.E.L.が頭を下げてオカルトGメンに協力を要請すべきだと言うのだ。にも関わらず、民間GSに依頼をしたと言うのは反則であると。
 頭を下げるかどうか、反則がどうかはともかくとして、B.A.B.E.L.がオカルトGメンに協力を要請すべきだった事は確かだろう、傍目にも明らかだ。
 ただでさえ公的な二組織よりも民間GSの方が知名度も信頼度も高いのが現状なのだ。ここでB.A.B.E.L.がオカルトGメンではなく民間GSに依頼したと知られれば、世間の人達はどう思うだろうか。
 きっとこう思われるだろう「B.A.B.E.L.にもオカルトGメンにも手に負えないから民間GSに依頼したのだ」と。オカルトGメン上層部はこれを危惧しているのだ。これについては美智恵も同意する、むしろ「人がオカルトGメンの地位向上に苦労してるのに、何すんねん」と率先してB.A.B.E.L.に殴りこんでやりたい。問題になるので実行はしないが。

 当面の問題は、上層部からの命令に対して美智恵がどう行動するかだ。
 このまま放っておくのはアウトだろう。だからと言って、除霊を妨害するわけにもいかない。
「落とし所は…僕達も例の屋敷の除霊に参加する、と言ったところですか?」
「その辺かしらねぇ」
 強引にでもB.A.B.E.L.とオカルトGメンの共同作業とし、横島の存在を徹底的に隠す、これしかないだろう。
 要するに上層部はオカルトGメンが世間から嘗められるのが気に入らないのだ。GS協会の株が上がり過ぎる事はB.A.B.E.L.にとっても不利益である、桐壺もそこまで話のわからない人間ではないだろう。

「西条君、今すぐ出動準備を。須狩開発室長にも言って今ある装備全部出させて」
「…全部、ですか?」
「そうよ」
 こういう時の表情を見ると、ああ親子なんだと思い知る。やはり美神家の女と言うのは、敵があってこそ輝くのだろう。
 ただ共同作業をするのではなく、こちらの威勢を見せ付ける。美智恵の考えが西条には手に取るように分かった。
 ライバル関係にある二組織なのだから張り合うのも仕方がない。直接的な手段でやり合うよりは平和だろうと西条も止めはしないのだが―――

「…恨むなら、自分の運の無さを恨んでくれ」

―――結果として民間GS、オカルトGメン、B.A.B.E.L.の三者を敵に回す事になってしまった哀れな悪霊に、西条は無言で十字を切って黙祷を捧げた。



 現場の横島達は特に妨害もなく件のミイラがある部屋に辿り着いていた。
「横島さん…ど、どうですか?」
「それらしい気配は感じないなぁ」
 部屋の中を見ないようにして廊下から問い掛けてくるナオミに対し、横島もまた部屋の中にいながらミイラには目を向けないようにして答える。彼も恐いのだ。
 桐壺もまた谷崎と同じようにミイラが本物であるか疑問に持ち、自分でも確認してみたがやはり結果は同じだった。ただ、こう損傷が激しい状態では、指名手配中のエスパー本人かどうかまでは確認できない。

「横島君、その…ユーレイと言うのは死体の傍に居るものではないのかネ?」
 やはりオカルトについて話すのは抵抗があるのか、どこか顔がひきつっている桐壺。対する横島も、元より知識が足りないためどう答えたものかと考え込んでいる。
 だが、ここはナオミに対して知的なところを見せるチャンスだと、何とか過去の経験から回答を探し出した。
「あー…何て言うか、幽霊が自分の身体の場所を覚えてないってのはあるらしいですよ。雪山で遭難して死んだワンダーホーゲル部ってのがいたんですけど、そいつに自分の遺体を捜してくれって頼まれた事ありますし」
「そんな事もあるのかネ?」
「ふ、二人とも…よくこんな場所で、平然とそんな話ができますね…」
 怪奇現象の起きる現場で怪談をしているようなものだ。ナオミは顔を青くして肩を震わせている。
 その事に気付いた二人は、一旦部屋を出て次の行動について話し合う事にした。

「桐壺さん、この屋敷に屋根裏部屋とか地下室は?」
「…どちらもあるな、これが見取り図だ」
 桐壺は懐から見取り図を取り出して、横島に見せる。
 外から見てわかっていた事だが、結構大きい屋敷だ。部屋数も多い。
「屋敷周囲の状況を見るに、ここに指名手配中のエスパーが潜伏しているのは間違いないと思う。」
「他に考えつかないっスね」
 「悪霊」ではなく「指名手配中のエスパー」と言うのが桐壺なりの抵抗だ。横島もそれには触れずに話を進める。
「やっぱり、この屋敷のどこかに幽霊が潜んでいるって事ですか!?」
 思わず横島の腕に抱きついて周囲を見回すナオミ、横島は平静を装うが鼻の穴が膨らんでいる。桐壺は「若いな」と思いつつも、それには触れずに話を進める事にした。世の中、大切なのは気遣いなのだ。
「横島君、君の霊視で何かわからないかネ?」
「漠然と居ると言うのはわかるんですけど…」
 言葉を濁す横島。
 横島の霊視では場所を特定する事まではできないので、探すとなれば一部屋ずつしらみ潰しに探すしかないだろう。

 ただ問題は、悪霊になった人物が超能力者だったと言う事なのだ。しかも、それなりに力を持った。
 横島は超能力と霊能力の関係を知識が足りないなりに考えて、以前西条が教えてくれた「呼び方が違うだけで、同じ物」と言う説に落ち着いていた。変に難しく考えるより、それが一番シンプルだと思ったからだ。
 しかし、そうなってくると「霊力を持った人物が悪霊化した」と言う事になる。だとすれば、もう少し正確に方向ぐらいは分かっても良いはずなのだ。

 これ以上考えていても答えは出ない。そう判断した横島はとにかく行動する事にした。
「とりあえず、屋根裏部屋から順々に調べて行きましょう。悪霊を見つけ次第、俺が祓います」
「うむ、それしかないな」
「そ、そうですね…」
 そう言って三人は屋根裏部屋へと歩を進める。
 桐壺の方は「相手は指名手配中のエスパー」と生死を無視する事で自分を強引に納得させたようだ。
 しかし、ナオミの方はそう簡単に割り切る事ができないらしい、横島の背にしがみ付いている。そんなに恐いのなら屋敷の外で待っていればよさそうなものなのだが、やはり特務エスパーとして育てられた彼女の責任感がそれを許さないのだろう。小さく震えながらもじっと耐えていた。

 その後、屋根裏から順々に一部屋ずつ見て回るが、横島達は悪霊の姿を見つける事はできなかった。
 突然電気が消えたのを良い事に、ナオミに抱きつこうとした横島、電気を付けてみると桐壺だったと言うハプニングもあったりした。しかし、それは悪霊の仕業と言うよりお化け屋敷の仕掛けの様にも思える。こうなってくると、本当にこの屋敷に悪霊がいるのか疑わしい。

 三人は二階、一階の部屋を見て回り、最後に地下室の扉の前に立った。
「ヤバい実験施設とかあったりして」
「こ、恐い事言わないでくださいよぅ」
「恐いのなら、横島君の後ろに隠れていたまえ。私が扉を開けよう」
 そう言って桐壺は扉を開けるが、中はただの倉庫だった。悪霊の姿も無い。
 横島の背に隠れていたナオミがそっと溜め息をもらした。

「この屋敷の持ち主はここを別荘として扱い、普段は別の場所で暮らしているそうだ。その人物についても調べてみたが、怪しい所は無い。ここに指名手配犯が潜伏している事も知らなかったようだ」
「…金持ってる人は持ってるんスねぇ。どうせ別荘建てるなら、こんな都会の郊外じゃなくて、もっと環境の良いとこにすればいいのに」
「横島さん、そう言う問題じゃないんじゃ…?」
 ナオミが疲れた表情でつっこむが、桐壺は割と横島に同意してたりする。

「ここに潜伏していた事は間違いないはずなんだが…」
 桐壺も疑念を抱き始めているようだ、訝しげに首を捻っている。
「局長、指名手配犯がいつから潜伏してたかわかりますか?」
「いや、それは分からんが…あのミイラの様子から察するに昨日今日と言う事はあるまい」
 この別荘自体、半年に一度使われるかどうかの使用頻度だったらしい。当然管理人は存在するのだが、週に一度見回りに来るぐらいでこれまた普段は別荘に居ない。
 横島はよく管理人に見つからなかったものだと思ったが、これほど大きい屋敷だ。管理人自身さほど真面目に見回ってはいなかったのだろう、生前ならば電気を消して身を隠せば見つからないぐらいに。そうでなければ、ミイラになる前に発見されているはずである。
「その管理人、今頃大目玉だな」
「だろうネ」
 男二人は、揃って大きな溜め息をついた。

「こうなってくると…検死できる人を連れてくるか、ミイラを運び出すしかないかなぁ」
「検死となるとオカルトGメンを呼ばないといけないだろうネ。一旦脱出して、善後策を練るとしよう」
 丁度良いと、桐壺は横島達を連れて屋敷の外に出る事にした。疲れの見え始めていた横島とナオミもこれに賛成し、屋敷に横付けしてある装甲車へと戻る。
 桐壺も勢いでここまで来たが、探索している間に頭が冷えてきたらしい。
 B.A.B.E.L.の立場上、オカルトGメンに頭を下げるのもアレだが、無視して民間GSに依頼するのはもっとアレだと気付いたのだ。横島の提案は彼にとって正に渡りに船だったであろう。



 その頃、屋敷の外でも事態が進展していた。
「な、何ですか貴方達は!?」
「うおっ、すげー!」
 美智恵達、オカルトGメンが到着したのだ。
 あれから須狩も頑張ったようだ。藍を基調としたボディスーツに、シルバーを基調としたフルフェイスのマスク。動きを阻害しない程度に薄い、しかし十分な強度を誇るプロテクター。腰には以前に完成させていた小型霊力コンデンサーを搭載した神通棍。手に持つ銃は須狩が改良を加えた破魔札マシンガンだ。
 そのまま魔族と戦いに行けてしまいそうな重装備。薫など突如現れた彼等の姿が心の琴線に触れたのか目を輝かせている。

 フル装備部隊の間を縫って美智恵と西条が前に出てきた。B.A.B.E.L.側も、何事かと皆本が前に出て応対する。
「皆本二尉、桐壺局長はどちらかしら」
「あ、えーっと…」
 皆本は困った。文珠見たさに現場に行ってます、と言ってしまって良いのだろうか。
 対する美智恵も困った。桐壺がこちらに来ている事は既に分かっている。この状況で出て来ないと言う事は、屋敷の中にいるのだろう。理由も大体察しがつく。
 目の前の皆本二尉は真面目な人柄だ。だからこそ、所謂「大人の事情」を理解するにはまだ若い、と言うか青い。歯に衣着せずに言ってしまえは、彼では話にならないのだ。B.A.B.E.L.とオカルトGメンが共闘しなければならない理由が、大人の事情そのものなのだから。
「とりあえず、出て来るまで待たせてもらいましょうか」
「は、はぁ…」
 極端な話、除霊現場に居合わせさえすれば、オカルトGメン上層部も言い訳は立つのだ。
 ざっとB.A.B.E.L.の部隊を見てみても、あくまで人間相手の部隊。西条率いる虎の子部隊と見比べれば、どちらの装備が優れているかは火を見るより明らかだ。練度の方では、B.A.B.E.L.の方が上だろうが、装備の面ではオカルトGメンに軍配が上がるだろう。
 実際にやり合う訳ではないので、この装備を見せ付ける事ができた時点で美智恵の目的も達せられたと見て良い。
「結界車両は必要なかったかしらねぇ」
「悪霊一体にやり過ぎです、隊長」
 何と、美智恵は出力三千マイトの結界車両四台まで用意していた。

「な、何やあいつら…ここで戦争でもおっぱじめる気かいな」
「…もっと、くだらない理由でしょ」
 薫と同じく装甲車の屋根の上に腰掛けている葵と紫穂。流石に薫と同じように彼等の装備を見て燃える事はないようだ。
 葵は物々しい彼等の姿に怯えているが、ある意味皆本よりも大人の事情を理解している紫穂は、美智恵の目的を何となく察しているようで、冷めた目で溜め息をついている。


「お、にいちゃん達出てきたみたいだぞ!」
 薫の大声を聞いて皆の視線が屋敷の方に集まった。屋敷に横付けされていた装甲車が動き出し、こちらに戻って来ている。
「まだポルターガイストは続いてるのに、何かあったのかしら?」
 何かトラブルがあったのかも知れないと慌しく動き始めるが、ポルターガイストの嵐を抜けた装甲車から降りてくる横島達三人は怪我一つ無い。その姿を見て皆本達はほっと胸を撫で下ろした。

 そして、美智恵が桐壺の前に出た。
 二組織の実質トップ同士の対面、周囲に緊張感が走る。
「桐壺局長」
「…丁度良い、貴方達に連絡を入れようと思っていたところです。ご協力願えますかな?」
「喜んで」
 あっさり話はついた。双方事情が分かっているからこそだ。両者共に笑顔で、かつ紳士的に話を進めているが、何故か背後に炎が見える、ような気がする。
 にこやかに握手を交わしているのだが、やけに力が篭っているように見えるがこちらは気のせいではないだろう。

「おお! 竜虎対決!?」
「狐と狸の化かし合いやろ」
「狐? 女豹でしょ」
 タマモを尊敬する身としては、美智恵を狐と表現するのは少し抵抗があるらしい。
 二人も異論はないらしく、しきりに頷いている。



 その尊敬されているタマモはと言うと―――

「大人は大変ねー」

―――周囲の騒動をよそに、きつねうどん九杯目に突入していた。



つづく



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