topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.137
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 アキラの仮契約(パクティオー)が終わり、いよいよ愛衣の番が来た。彼女は既に顔を真っ赤にし、かなり緊張しているようだ。
「愛衣、大丈夫?」
「あ、お、おおお、お姉様」
 見兼ねた高音が声を掛ける、愛衣はあたふたとしながらも何とか返事を返す。
「あの、私が、お姉様を差し置いて、お兄様と仮契約しちゃっても、いいんでしょうか?」
「な、何を今更……私の事は気にしなくてもいいのよ。今は仮契約する気はないから」
 そう言ってぷいっと視線を逸らす高音。その頬が微かに紅く染まっているのを愛衣は見逃さない。
 実は愛衣が横島との仮契約を躊躇している理由は、この姉のように慕う高音にあった。彼女が横島に対し好意を抱いている事はレーベンスシュルト城では周知の事実である。特にアスナ達中学生組は、横島と同い年で美人でスタイルも良い彼女の動向に注目している。
 最近の彼女は横島の事を認めたのか、学校で噂の的になり開き直ったのか、彼に対して好意を隠さなくなってきた。警備の仕事中も彼と共に率先して前に出て大人顔負けの実力を遺憾なく発揮している。また、霊力供給の修行中でも積極的にスキンシップを図るようになってきているため、アスナ達はにわかに危機感を募らせていたのだ。
 だからこそ愛衣は迷う。彼女も横島の事を慕っているが、アスナ達とは少し違うところがある。
 愛衣にとっては、「お兄様」と慕う横島だけでなく「お姉様」と慕う高音の事も大切なのだ。仲良しの二人の間に自分も入りたいと言うちょっと変わった願望を持っている。木乃香がこれに近い考え方を持っているが、彼女の場合は自分と横島が仲良くなり、それに刹那も加えたいと考えているので、「主」となるものが少々異なっていた。
 それはともかく、愛衣は二人にもっと仲良くなって欲しいと思っているため高音が積極的になった今の状況は望ましいものではあるのだが、だからこそ高音が仮契約してないのに自分がしてしまって良いのだろうかと言う思いがあった。しかも愛衣は高音の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』でもあるのだ。
 しかし、当の高音は横島とは主従ではなく対等の立場でいたいため、今仮契約しない事は譲れない一線であった。
 愛衣が仮契約する事を止めるつもりはない。魔法使いの常識で言えば、益体もない事に拘っているのは高音の方である事は高音自身が一番よく分かっている。
 何より高音と愛衣は以前、高音を主に仮契約を結んだが、これはアーティファクトが欲しいと言う理由からであった。それが今は「人と人ならざるもの達との共存」を真剣に考えた上で横島と再度仮契約を結ぼうとしている。言わば、この仮契約は愛衣の成長の証だ。高音としては自分の事は気にせずに、仮契約を結んで欲しいと考えていた。
「愛衣、あなたは何のために横島君と仮契約したいと思ったの?」
「それは……」
「あの頃と違って、仮契約する事について真剣に考えたんでしょ?」
「は、はい」
「だったら、ここで立ち止まっちゃダメよ。しっかりなさい」
 高音は愛衣の肩に手を置き、力強い口調で励ます。その言葉を聞き愛衣もようやく決心がついたのか、神妙な面持ちでコクリと頷いた。

「あの、お姉様、近くで見ていてもらう事は出来ませんか?」
「ダメに決まってるでしょ」

 おずおずと尋ねてくる愛衣に高音はぴしゃりと断りの返事を返した。流石に人の仮契約―――要するにキスシーンを見物する気はない。
「うぅ、霊力供給の修行の時はお互いに色々見てるのに……」
「そ、そう言う事はやってないでしょっ!」
 暗にキス以外は色々としているし、見ていると言っている。自覚があるのか、高音だけでなく愛衣の顔も真っ赤になっていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.137


「大丈夫か?」
「……ひゃい!」
 横島の問い掛けに顔を真っ赤にして答える愛衣、あまり大丈夫ではなさそうだ。
 先程高音と話した事で、霊力供給の修行中もキスだけはした事がなく、これまでの経験は高音との仮契約の際の一回のみ。男の人とのキスはこれが初めてだと言う事に気付いてしまったらしい。手を繋ぐのは恥ずかしいため、彼の服を摘んで俯き加減に付いて歩いている。
「よぉ、待ってたぜお二人さん」
 二人が辿り着いた場所は、レーベンスシュルト城の本城にある広間。愛衣が普段から行く場所だと、今後そこに行く度に横島とのキスを思い出して赤面してしまいそうだったので、別の場所はないかとエヴァに訪ねたところ、彼女がこの場所を教えてくれたのだ。
 ダンスホールとして使える場所なのだが、元々客を招いてパーティーをするような城ではないため、今まで一度も使われた事がないらしい。勿体ない話だと思うが、エヴァ曰く本城は広過ぎて不便との事。日本で長年暮らし、また別棟で皆で暮らすようになってから心境の変化があったのかも知れない。
 広間に入ると既にカモが仮契約の魔法陣を描き終えて待っていた。既に魔法陣は発動し、淡い光を放っている。
「い、いよいよですね……」
「そう、いよいよだぜぇ。それじゃ、ごゆっくり〜♪」
 床の魔法陣を見下ろし、神妙な面持ちで呟く愛衣。カモはげへへといやらしい笑みを浮かべたまま二人を残して広間から出て行ってしまった。彼はそろそろオコジョ協会からのボーナスで一財産築いていそうだ。
「それじゃ、やるか」
 横島は魔法陣の上まで移動すると、もじもじしている愛衣に手を差し伸べた。彼にとって魔法陣の光は少女達ほどの影響はないが、何だかむずがゆくなってくる。彼の手を見て躊躇していた愛衣だったが、やがておずおずとその手を取るともつれるような足取りで魔法陣に入った。そのまま倒れ込むように横島に抱き着く形になる。
「あっ……」
「おっと、大丈夫か?」
 瞬時に顔を真っ赤にしてしまう愛衣。今の彼女は横島に身体を預け、自分の足では立てていない状態だ。横島は愛衣をしっかり立たせようとするが、彼女の方から横島の胸に顔を埋めてそれを止めに来た。
「あ、あの、お兄様っ!」
 ここで仕切り直してしまうと、恥ずかしさに耐えられない。そう思った愛衣は、このまま仮契約を進めて欲しいと頼む。
「このまま……お兄様の好きにしてください……」
 頭が真っ白になっていたせいか、少々大胆な言い回しになってしまったが。意外とこれこそが彼女の本音なのかも知れない。
 その誘いに横島が耐えられるはずがなかった。今度は彼が頭が真っ白になる番だ。
 そのまま抱き寄せると、二人の身体は密着するが身長差があるため上手くキスする事が出来ない。そのまま横島は愛衣を強引に抱え上げる。すると彼女の足は床から離れ、その小さな身体は彼の腕と胸だけが支えとなる。
 微かに震える唇、ようやく届く距離まで近付いて来た。興奮気味の横島は、荒くなっていた鼻息をピタリと止め、急に真面目な顔になって自分のそれを重ね合わせる。
「んっ……」
 小さく息を漏らす愛衣。地に足も付かず、横島に全てを委ねた状態の彼女は、大好きなお兄様を全身で感じ取ろうとただただ目を閉じて口付けを受け容れるのだった。

 横島と同じくらいに大好きなお姉様――高音の事を思い浮かべ、いつか三人で……などと大胆な事を考えながら。



 その後、顔を真っ赤にした愛衣が横島にぴったりと寄り添いながら別棟に戻ると、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたカモが彼女達を出迎えた。
 このオコジョ、ネギ達があまり仮契約しないためネギパーティの方ではあまり稼ぐ事が出来ず、横島達の仮契約を非常に有り難がっている節があった。
 おかげでネギをサポートする事に関しては儲ける事を切り離して考える事が出来、横島達も望んで仮契約しているため、誰も損をする事がない持ちつ持たれつの関係が出来上がっていると言えるかも知れない。
 続けて高音が二人の下に駆け寄る。
「愛衣、大丈夫だった?」
「……あ、はい……まだ、足下がふわふわしているような感じが……」
 心配そうな高音を他所に、頬を紅潮させながら蕩けるような表情になっている愛衣。高音の聞きたい事はそう言う事ではないのだが、これ以上は言っても無駄なようだ。彼女はしばらく「こちら側」には戻って来ないだろう。霊力供給の修行では自分も同じような状況になっている自覚があるため、高音はため息を一つついて二人をソファへと導く。そして二人を並んで座らせると、自らは愛衣の隣に腰掛けた。
「横島さん、愛衣ちゃんのカードもう出てますよ。ほら、こっちがオリジナルカードです」
 すかさず横島の隣を確保するのはアスナ。隣に腰掛け、当たり前のように横島と腕を組んだ彼女は、先程カモに借りて見せてもらっていた横島と愛衣の仮契約カード、マスターが持つオリジナルの方を彼に手渡した。
 横島がカードを手に取ってみると、愛衣も更に身体を寄せて覗き込んで来た。そこには黒い三角帽子と黒を基調としたシックなドレスを身に纏った横島のイメージする通りの魔女の姿をした愛衣が、古めかしい箒を持った姿が描かれている。やはり彼の抱く魔女のイメージは『現代の魔女』魔鈴めぐみの影響が大きいようだ。
「あれ……?」
 カードの絵柄を見て、愛衣は首を傾げる。
「どうした、愛衣ちゃん」
「いえ、どれがアーティファクトなのかなって……」
「え、どれって……」
 愛衣の言葉を聞いて、横島とアスナは再びカードの絵に目をやる。
 仮契約カードに描かれるのはアーティファクトを持った『魔法使いの従者』の姿だ。つまり、この絵の中に横島と仮契約した愛衣のアーティファクトも描かれている事になる。
「やっぱり、この箒が魔法の箒なんじゃ?」
「ま、また箒なんですか……?」
 先程までの蕩け具合はどこへやら、アスナの言葉にショックを受けた様子の愛衣。かつて彼女がアーティファクト欲しさに高音と仮契約した時に現れたアーティファクトは『favor purgandi(ファウォル・プールガンディ)』と言う数打ちのアーティファクトだった。そして彼女は土偶羅から話を聞き、従者としての覚悟もなくアーティファクト欲しさだけで仮契約する者には職人妖精達もおざなりになると知らされる。
 ならば今度こそと愛衣は横島の目的に共感し、そして彼と共に歩む覚悟を決めて仮契約に臨んだ。臨んだはずだった。
 しかし、結果はまだ魔法の箒。自分の覚悟は認められなかったと言う事なのか、それともこれが自分の限界なのか。
「……………」
「愛衣ちゃん!」
「ちょっと、しっかりしなさい!」
 思わず力が抜けて崩れ落ちそうになる彼女を、慌てて横島と高音が支える。
「おっとお嬢さん、気落ちするのは早いぜ。よく見てくんな」
 二人に支えられてソファに座り直した愛衣の前に、いなせな表情をしたカモが姿を見せた。テーブルの上に立つ彼は、手に持ったコピーの仮契約カードをちらつかせている。
「忘れちゃいけないぜ、魔法の箒ってのは何種類もあるもんだ。一見同じ様に見えても、まったくの別物って事も有り得る」
「あ……」
 魔法の箒と言うのは歴史の古い魔法具の一つで、魔法世界が誕生する以前から使われていたものだ。そのため人間界でも知名度が高く、現代にも当時の姿のまま現存している逸品だって存在する。
 また、現代の魔法世界では箒の形をしていない物も珍しくなかった。激しい空中戦も行えるように手に持つ部分に工夫をこらした物もあり、「有名ブランド」なんてものも存在していたりする。またネギなどは杖を箒の代わりにしていたり、エヴァに至っては魔法力で形作ったコウモリのマントを用い、補助具そのものを必要としていなかった。魔法の箒はあくまで「魔法で空を飛ぶための補助具」の総称に過ぎないのだ。
 では、愛衣の箒はどうなのか。愛衣はコピーカードを手に取り、改めてカードに描かれた箒を隣の高音と一緒に見てみる。一見『favor purgandi』と変わらぬ古めかしい箒に見える。
「と、とにかく、召喚してみます」
 そう言って愛衣は立ち上がり、カードを掲げて『来れ(アデアット)』と唱えた。
 彼女の手に現れたのは、やはり古めかしい箒であった。落胆した様子でがっくりと肩を落とす愛衣だったが、彼女が手にする箒を見て横島がしきりに首を傾げている。その様子に気付いたのはアキラであった。
「横島さん、どうかしたの?」
「いや、その箒どっかで見た事があるような……?」
 何故か横島は、その箒に見覚えがあるようだ。
「え?」
 その声を聞き、愛衣は顔を上げて改めて箒を見てみる。
 皆の視線も箒に集まり―――「あれ?」「それって……」―――他にも幾人か、箒を見ながら首を傾げる者達が現れ始めた。愛衣の隣に立つ高音を筆頭に、シャークティ、美空、ココネ、アーニャ、コレット、そしてカモと魔法使いの関係者ばかりだ。言われてよく見てみれば、普通の箒より少し赤みがかっている気がする。
「ちょっと、皆してどうしたのよ」
 その一方でアスナ達は何がなんだか分からない様子だ。
「カモ、この箒が何だと言うアルか?」
「ちょ、ちょっと待っておくんなせい」
 古菲に問い掛けられ、カモは慌てた様子で夕映を見る。その視線を受けて夕映はハッと気付いた。こんな時こそ、彼女のアーティファクトである土偶羅魔具羅の出番だ。
 すぐさま『来れ(アデアット)』と土偶羅を呼び出してみると、まだ向こうで仕事中なのかいつものような反応がない。しかし、この端末ボディを使って本体に問い合わせる事が出来るので、夕映は魔界の土偶羅に愛衣のアーティファクトについて問い合わせてみた。
 それから数分もしない内に返事が来る。あちらの職人妖精達も問い合わせが来る事を予測していたのかも知れない。土偶羅の端末からプリントアウトされてくる紙を手に取る夕映。そこに書かれた文字はご丁寧に日本語に翻訳されていた。
「えっと……『炎の狐』。中世オカルト技術が作り上げた逸品で、自らの意志を持つ、文字通り魂を持った芸術品―――と書かれてますね」
「やっぱり『炎の狐』なの!?」
 そこまで読み上げたところで、コレットが思わず身を乗り出して問い掛けてきた。今にも夕映を押し倒しそうな勢いだ。
「現存する当時の魔法の箒の内、『青き稲妻』と合わせてたった二本しかないと言われている、あの……」
 流石のシャークティも驚きを隠せないようだ。無理もあるまい。
 中世当時の魔法使い達が使っていた道具、秘術の類は、『魔女狩り』によってほとんどが壊滅してしまっている。当時の魔法使い達は魔法界に移住したが、当時の技術はあちら側にも全く残っていなかった。
 そんな中、奇跡的に生き残ったいくつかの資料、道具があるのだが、その内の一つが魔法の箒だ。中世当時の魔法の箒は二本だけ現存しており、それがシャークティの言う『青き稲妻』と、今愛衣の手にある『炎の狐』である。魔法使い達は、現代の魔法の箒からは感じられない凄味を感じていたのだろう。

「あら? ちょっと待って」
 そこで千鶴がある事に気付いた。
「確か、アーティファクトになる物って今は現存していないはずじゃ?」
 そう、全てのアーティファクトに共通している特徴として「冥界にいる職人妖精達の物であり、人間界には現存していない物である」と言うものがある。その理屈に則って考えるならば、現存する二本の魔法の箒の内の一本である『炎の狐』がアーティファクトとして出現するのはおかしい。
 魔法使い達が揃って首を傾げる中、横島は一人そろりそろりと四つん這いでその場から離脱しようとする。
「どこへ行かれるのですか?」
 しかし、いつものようにその前に立ち塞がる茶々丸。見上げてみると、相変わらず下着のセンスは良かったようだ。



 皆に詰め寄られて観念した横島は、除霊助手時代に『炎の狐』に関わった事があり、音の壁にぶつけて折った事があると白状した。
「『炎の狐』を折った!?」
 驚きの声を上げる面々。仕方有るまい、国宝どころか世界の至宝レベルの物を破壊したと言うのだ。高音に至っては事の重大さに立ちくらみを起こしているが、その一方で美空は腹を抱えて転がりながら大笑いしていた。スカートの中が見えてしまっているのも気に掛ける余裕がない程受けているようだ。
「でも、あれは魔法関係を抜きにしても貴重な物。折れたりしたら騒ぎになってるはずよ?」
 訝しげな表情で問い掛けるシャークティ。彼女の言う通りだ、本当に『炎の狐』が折れたのならば、ニュースでも報道されているはずである。『スペイン秘宝展』と言うそれなりに注目されるイベントの最中に起きた事件ならば尚更だ。
「横島さん、まさか隠蔽したのでは……?」
「ち、違う! 俺は何もしてないぞ! その辺の後始末は美神さんが……!」
「具体的には?」
「何でも、いつでも折れるけど一見元に戻ったような状態で相手に返したとか……」
「……………」
 黙り込む一同。無事に『炎の狐』がスペインの手に戻り、日本の担当者もほっと一息ついたところでポッキリと折れる箒。その時何が起きたのかをリアルに想像する事が出来てしまった。
 現在その事が明るみに出ていないと言う事は、当時の担当者達はその事を隠蔽してしまったのだろう。現在スペインで保管されている『炎の狐』は密かに修復された物だが、それは形だけの物であり『炎の狐』の魂は既に死に、冥界の職人妖精の下に回収されていると言う事だ。
「ど、どうしましょう、これ……」
 愛衣がおずおずと問い掛けると、皆の視線が自然とシャークティに集まった。こう言う時に頼れるのは彼女だ。同じ魔法使いでも高音やコレットでは、こんな難しい判断は出来ないし、エヴァは別の意味で頼りにならない。
 しばらくこめかみを押さえて考え込んでいたシャークティだったが、やがて小さくため息をつき、そして重々しく口を開いた。
「どうすると言っても、愛衣のアーティファクトに『炎の狐』が現れた事と、横島君が以前『炎の狐』に関わった事がある事を、そのまま報告するしかないでしょう。折った事までは報告しなくていいけど」
「まぁ、妥当な判断だな」
 続けてため息をついたのはエヴァ。妥当な判断ではあるが、つまらないと言ったところだろうか。おそらく下手に隠蔽しようと考えたならば、からかってやろうとでも考えていたのだろう。
「あの、それで大丈夫なんですか? お兄様のご迷惑になるなら、私……」
「その心配はいらん。本国の連中は魔法の道具が『人間』の手にある事を快く思っていないんだ。アーティファクトとしてでも戻って来たなら逆に喜ぶだろうさ」
 騒動になりそうにないため、エヴァは興味を失ってしまったようだ。小馬鹿にするような笑みを浮かべて魔法世界の『魔法使い』達を皮肉っている。
「でも、お兄様が折った事は事実なんですよね?」
「あの、その点は問題ないかと」
 それでも心配そうな愛衣に助け船を出したのは夕映だった。
「当時の横島さんの立場は除霊助手。助手が除霊作業中にトラブルを起こした場合、その責任を負うのは雇い主であり師匠でもあるGS資格の所有者――つまり、美神さんと言う事になるはずです」
「それじゃ、問題になったら美神さんの責任って事?」
 裕奈が首を傾げて問い掛けると、夕映は黙って首を横に振る。
「いえ、美神さんは無事に『炎の狐』を取り戻しました。事実はどうであれ『炎の狐』が折れたのはその後と言う事になりますので……」
「『美神令子』と言う壁を突破せんと、忠夫には辿り着かれへんと言う事やな……」
 テーブルに肘を突いた千草が、呆れた表情で呟いた。陰陽師である彼女は他の面々よりもオカルト業界に詳しいため、美神令子の「強さ」はいやと言う程理解している。自分の立場が掛かっているため、彼女もこの件に関しては一切手を抜かないだろう。
 それに、表向きは令子が取り戻した後に折れた事になっているのだ。折れた後冥界に回収された『炎の狐』が、以前に横島と縁があったためアーティファクトに選ばれた。その辺りに着地する事になると考えられる。


「でも、同じ魔法の箒が出たって事は、やっぱり愛衣ちゃんって箒が似合ってるって事なのかな?」
「そ、そうなんでしょうか?」
 小首を傾げて疑問符を浮かべるアスナに、愛衣は困った表情で苦笑しながら答えた。
「でも、以前の数打品と違って、これは名品ですぜ! それだけ姐さんが成長してるって事でさぁ!」
 その一方で得意気な表情で笑っているのはカモ。『炎の狐』は有名な品ではあるが、これまでアーティファクトとして召喚された例はない。つまり、これも「初めて確認されたアーティファクト」なのだ。ボーナスが期待出来るだろう。
「そ、そうね。同じ魔法の箒でも、こちらの方が遥かに格上。横島君の影響もあるでしょうけど、あなたの成長の証である事は確かよ」
「お姉様……」
 愛衣の成長については、ようやく立ちくらみから回復した高音も同意した。
 横島に経絡を開かれて以来彼に染まっているのは事実だが、同時に愛衣は魔法使いとして大きく成長している。その結実が『炎の狐』だ。たとえ横島に縁がある物だとしても、それに相応しい力がなければそれが愛衣の下に現れる事はなかっだろう。

 皆の質問責めに遭い力無くぐったりとソファにへたり込む横島の下に、『炎の狐』を大事そうに抱えた愛衣が駆け寄る。
「お兄様、ありがとうございました! お兄様のおかげで、私成長出来ました!」
 そして愛衣は、感極まって頬を紅潮させ、はにかんだ表情でぺこりと頭を下げる。想像もしなかったような凄いアーティファクトが手に入った事は嬉しい。しかし、それ以上に自身の成長が何よりも嬉しかった。霊力供給の修行は色々と恥ずかしい面もあるが、今ならば受けて良かったと胸を張って言える。
「ははは、喜んでもらえたなら何よりだ」
 そう言って横島は姿勢を正すと、おもむろに愛衣の頭を撫でる。横島にとっては役得よりも責任の重さの占める割合が大きい仮契約だが、こうして喜んでもらえるのはやはり嬉しいものである。横島の手を嬉しそうに受け容れる愛衣の笑顔を見ていると、その重さも幾分和らぐような気になってくるから不思議だ。この笑顔を守らなくてはなるまいと横島は決意を新たにする。

 横島がそんな事を考えていると、不意に愛衣が顔を上げ、じっと横島の目を見てきた。彼女の瞳はキラキラと輝いている。
 彼女は改めて考えていた。横島の言う「人と人ならざるもの達との共存」と言う言葉の全てを理解出来た訳ではない。しかし、魔法使いと人間だけに留まらず、真祖の吸血鬼のエヴァに、ガイノイドの茶々丸。烏族のハーフだと言う刹那に、亜人のコレット。それに幽霊のさよに、自動人形のチャチャゼロ。そして魔物であるすらむぃ、ぷりん、あめ子。彼女達と共に過ごすレーベンスシュルト城の日々は愛衣にとって楽しいものだ。皆がこんな日々を過ごせるように頑張るには悪くないと思える。
「私、この『炎の狐』と一緒にどこまでもお兄様に付いて行きます!」
 この人について行こう。それはきっと間違いではない。そんな思いを抱きながら、愛衣は横島に向けて満面の笑みと共にそう宣言するのだった。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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