「覚悟しなさいフェイト! このGS見習い神楽坂アスナが……極楽へ逝かせてあげるわッ!!」
フェイトが宿る魔体の頭脳に、ハマノツルギの渾身の一撃が振り下ろされた。
その一太刀は『究極の魔体』モドキの頭部を捉え、そして砕く。おぞましい断末魔が麻帆良の町に響き渡る。
魔法の力で魂を分け、不死の力を得ていたフェイト。その力の根源、最後のひとつに魔法無効化能力(マジックキャンセル)を叩き込まれたのだ。一撃必殺である。
「きゃっ!?」
ワンテンポ遅れて『究極の魔体』モドキは力を失い崩れ落ちた。息を詰めていたアスナは不意を突かれてバランスを崩す。
「危ない!」
すかさずそれを助けたのは横島。そのままアスナをお姫様抱っこした状態で跳躍し、その場を離れる。
無事に着地し、その背後で轟音が鳴り響く。振り向くと、そこにはバラバラになった『究極の魔体』モドキの姿があった。
その様子を中継を通して見ていた和美は、しばし呆気にとられていたが、ハッと我に返って自らの役割を思い出す。
「ご覧ください! 皆さんの活躍で敵ロボ軍団はあらかた壊滅! 巨大ロボも撃破されました! 我々学園防衛魔法騎士団の完全勝利ですっ!!」
そして思い切り声を張り上げ、高々に宣言した。
こうして関東魔法協会、関西呪術協会、そして魔法界をも巻き込んだ戦いは終わりを告げ、世界樹を無事に守り切る事ができたのである。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.198
この時間になると、世界樹は全体が眩く輝いている。そのおかげで日は暮れているが辺りは明るく照らされている。
魔法使い達の必死の防衛により、幸い一般人に被害は出なかったようだ。一般客にしてみれば、例年以上に盛り上がったクライマックスイベントが終わり、ここからは後夜祭である。
しかし、魔法使い達はそうはいかない。石化魔法による被害がかなり大きかった。食らった者達も、無事だった者達も後夜祭には参加できないだろう。
それでも魔法先生達は、魔法生徒達はできるだけ参加できるよう休ませるようにしているようだ。
関西呪術協会の面々も、学生達がせっかくの学園祭を楽しめないのは可哀相だ、今ばかりは東も西も無いと協力を申し出てくれている。
ちなみにネギは魔法先生だが、今はゆっくり休むようにと伝えられた。なんだかんだといって、他の魔法先生達から見れば彼は子供なのである。
石化後一部砕かれた者も少なからずいるようだが、魔法で問題無く治るだろう。これは石化されていなければ死んでいた可能性もあるので不幸中の幸いでもある。
そして横島達はというと、そのままその場を離れ、中継には映らないところで合体を解いた。
「ママ、重いネ……」
「し、失礼ね! あんたなら平気でしょ!?」
その結果、アスナをお姫様抱っこする横島と、令子をお姫様抱っこする鈴音に分かれたのはご愛敬である。
「魔法無効化能力か、凄まじいな……」
西条と雪之丞も無事に合体を解いたが、ピートとエミの方はそうはいかなかった。
「エミさん、しっかりしてください!」
「うえへへへへ……」
ピートと合体した事で、エミがトランスし過ぎてしまったのだ。酩酊状態になり、蕩けた顔をして腰砕けの状態になっている。
すぐさま西条がエミの様子を確認。そして沈痛そうな面持ちで首を横に振ったが、合体解除自体はできているので放っておけば治ると判断を下した。単に呆れていたのだろう。
そしてアスナは――
「手が……足が……上からドスンと横綱があぁぁぁ〜〜〜!」
――早速、地獄の筋肉痛を味わっていた。
令子はすぐに降ろされていたが、アスナはそれどころではない。
周りの面々は何事も無い様子で、心配そうにアスナを見てくる。
「な、なんで皆さん、平気なんですか……?」
「この場合、実力差があるのに同期合体したからだろうなぁ……」
したり顔でそう言う西条は、明日自分も筋肉痛になる事をまだ知らない。猿神(ハヌマン)の試練をクリアした雪之丞とでは、マイト数に差があったようだ。
それはともかく、アスナは動ける状態ではないため横島にお姫様抱っこされたままという事になった。アスナ的には役得だが、激痛に苛まれている状態では良し悪しである。
「鈴音、カードのセットを頼む。ズボンのポケットに入ってるから」
「ハイハイ」
鈴音がポケットから仮契約(パクティオー)カードの束を取り出し、その内のアスナのものを横島のバンダナに挟む。
「あ〜、楽になってきました〜……」
こうする事で横島からアスナに霊力を供給し、間接的にヒーリングする事ができるのだ。修学旅行でもやった方法である。
そうこうしていると、周りで戦っていたネギ達が集まってきた。
「水分身は全部倒したのか?」
「いえ、まだ倒していなかった水分身が一斉に消えたんです」
おそらく消えたタイミングは、アスナが『ハマノツルギ』を叩き込んだ時だろう。術者であるフェイトに魔法無効化能力が発動したため、魔法で生み出された水分身も消えたのだ。『究極の魔体』モドキが全滅した今、もう水分身もいないという事になる。
「ていうか、アレどないするんや?」
ネギの隣の小太郎が、バラバラに崩れた『究極の魔体』を指差しながら言う。
「放っとけばいいんじゃないか?」
しかし横島は、それを一言で切って捨てた。
実際その辺りを考えなければいけないのは学園長なので、この場にいる面々には関係のないことである
という訳で横島達はそれを放棄し、自分達も後夜祭を楽しむべく会場の方へと移動する事にした。
移動の最中、横島に抱き上げられたままのアスナに、ネギが心配そうな顔をして近付いてくる。
「アスナさん、大丈夫ですか?」
「えっ? ええ、まだ立つのも無理かしらっ?」
「ネギ坊主、しばらくそっとしておいてやるネ」
「あ、はい。そうですね」
鈴音が誤魔化してくれたが、そのままニヤニヤした笑みでアスナを見てくる。声には出さなかったが、唇の形が「ア・ス・ナ・マ・マ」と紡いだ。
アスナは顔を真っ赤にして何か言おうとしたが、直後に激痛が走ってそれは叶わなかった。全身が痛く、歩く事もできないのは紛れもない事実なのだ。
結局この状態はイベント本部に戻るまで続き、木乃香にヒーリングしてもらう事で、横島に間接ヒーリングされながらならば動けるようになった。
「……本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ……後夜祭、逃せないからね」
ネギは相変わらず心配そうで、アスナも痛みは残っているようだが、それでも後夜祭への参加を止めようとはしなかった。
ネギは彼女を心配して更に食い下がろうとするが、それを木乃香がやんわりと止める。
「堪忍したってな、ネギ君」
「でも、あれまだ痛いんじゃ……」
「やと思うけど、ほら、ウチら生徒として麻帆良祭に参加するの最後になるやろから……」
「あっ……」
木乃香の言葉にネギは気付いた。彼女達は、高校は六道女学院への進学を目指している。無事進学できれば、来年は麻帆良にいない事になるのだ。
来年以降は来れたとしてもお客さん。麻帆良の生徒として参加できるのはこれが最後という事になる。彼女は小学生の頃からずっと麻帆良で過ごしてきたので、余計に感慨深いだろう。
「ネギ君も、魔法使いの修業で麻帆良に来たんやろ? いつまでおれるか分からんし、後夜祭楽しまなあかんで?」
そしてそれはネギも同じだった。彼も魔法使いの修業として麻帆良に来たのだ。いつまで麻帆良にいられるかは分からない。そう考えると、アスナの気持ちも分かるような気がした。
木乃香も、このまま刹那と一緒に後夜祭を楽しむつもりのようだ。
アスナの方を見ると彼女は既に横島の所に行っていた。そちらは既に薫達がひっついていたが、今日の殊勲者だと歓迎されているようだ。
「お〜い、ネギ〜!」
その背中を見送っていると、小太郎が声を掛けてきた。
その周りにはネギ・パーティの面々がおり、のどかが小さく手を振っている。
「よし、僕も後夜祭を楽しもう!」
気を取り直し、ネギも麻帆良祭の最後を楽しむ事にする。
空腹を覚えていたので、まずは何か食べようかと考えつつ皆と合流すると、既にのどか達が料理を用意してくれていた。
「どうしたんですか、これ?」
「さっき『超包子』の屋台が来て、もらったんです」
四葉は最後の最後まで忙しいようだ。それもひとつの楽しみ方であろう。ちなみに真名とハカセは、そちらの手伝いに回っているらしい。
ネギが差し入れを頬張りながら辺りを見回してみると、鈴音の姿がどこにも見えない事に気付く。
「あれ? 鈴音さんは?」
「ああ、さっき美神さん親子に連れていかれましたよ」
「……ああ、横島さんだけじゃなくて、あちらとも親子ですもんね」
美智恵から見れば孫である。
拒まれている訳ではなさそうなので、そちらは放っておいてもいいだろう。
大きな肉まんを食べ終えたネギは、次の点心に手を伸ばすのだった。
そんな喧噪から離れた世界樹。
眩く輝いているが、一般人は近付けないようになっており、根元付近は人気が無い。
そんな中、世界樹に近付く一つの影が。
「オ……ノ、レ……!」
既に姿形はおぼろげだ。だが、その声は……フェイトのものだった。
そう、アスナの一撃は確かにフェイトに不死の力を与えていた魔法を打ち消した。だが、その中に宿っていた魂までは消す事ができなかったのだ。
中に宿っていた魂は一部だけ。このままでは遠からず消滅してしまうだろう。
「マ……ダ……ダ……!!」
しかし、まだ世界樹がある。コスモプロセッサ化は失敗したが、それでも力はある。
この後は消えるしかない魂の一部を、肉体までは無理にしても、完全な魂に戻す事ならできるだろう。
魂が戻っても、一時姿を隠すしかないだろう。だが、ここを切り抜ける事ができれば、次の好機を待つ事ができる。
幸い周囲に人影は無い。フェイトは震える手を世界樹に向けて伸ばし……。
「させると思ったか?」
その手を、小さな足が踏みつけた。
「ククク……無様な姿だなぁ」
その足の主は、エヴァ。傍観者に徹していた彼女は、『究極の魔体』モドキからフェイトの魂が逃げ出したのを見逃さなかったのだ。
「タカミチあたりに知らせる事も考えたが……貴様には恨みがあったからな」
ジェットコースターに乗れなかった恨みである。
彼女はまだフェイトを許していなかった。『究極の魔体』モドキとの戦いの間、何度も横殴りしたいと思いつつ我慢してきたのだ。
逃げたフェイトの魂を見つけて我慢できなくなったとしても、誰が彼女を責められようか。
「貴様が悪霊まで堕ちたというならば、GSの流儀に合わせてやるとしようか。なあに、ハーフもなっているのだ。真祖が真似事をするくらいかまわんだろう」
エヴァは魔法で氷の剣を生み出し、大きく振りかぶる。
「この『闇の福音』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが……地獄に落としてやるッ!!」
「ソレ……チガ……ッ!?」
そして勢い良く振り下ろし、フェイトの魂を完全に消滅させた。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音、フェイト・アーウェルンクス、リョウメンスクナに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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