topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.96
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 高音、愛衣、ココネの経絡を開き終えたその日の晩、アスナ達は夕食のために本城のテラスへと移動していた。高音と愛衣は、ふらつきながらも自力で歩けるまで回復していたが、ココネの方はそうもいかなかったようだ。
 美空が背負おうにも手に力が入らない状態らしく、横島に抱っこされた状態になっていた。美空は自分がやると申し出たが、横島曰くこのような力仕事は男の役目であるらしい。ココネも特に拒まなかったので、美空は「はぁ、そうっスか」と、お言葉に甘えて楽をさせてもらっている。
 その美空は、現在刀子とシャークティと共に寮の方に戻っていた。エヴァの許可が得られたので、彼女達も今日からレーベンスシュルト城で暮らす事になる。そのための準備をしに戻って行ったのだ。本来ならば高音、愛衣、ココネの三人も一緒に戻るはずだったのだが、今の状態ではそれも難しいため、刀子達三人が彼女達の荷物も持ってきてくれる事になっている。高音にとっては幸運であろう。今のとろんと緩んだ表情でウルスラの女子寮に帰ればどんな噂が立つか、考えるのも恐ろしい。

 一行がテラスに到着すると、そこは賑やかなパーティー会場と化していた。霊力を暴走させて抑えが効かなくなったため、数日学校を休んで療養していた千鶴の事を心配して訪れた3−Aの面々も、彼女は明日にも学校に行けるぐらいまで元気になっていると聞き、ならばお祝いのパーティーとしようと言う事になったらしい。理由を見付けたので騒ぎたかったと言うのも、半分本音であろう。
 現在のアスナ達一行の人数は、横島、アスナ、古菲、裕奈、夕映、千鶴、木乃香、刹那、風香、史伽、高音、愛衣、ココネの合計十三人だ。このテラスには幾つもテーブルがあるが、一つのテーブルに座れるのは四、五人。椅子を追加したところでせいぜい七、八人程度なので、一行は幾つかのテーブルに別れる事になる。
 アスナは当然横島と一緒のテーブルに座りたがったが、当の横島がエヴァに呼ばれて彼女のテーブルに行ってしまった。千鶴も一緒だ。彼女の今後に関する話らしい。風香、史伽の二人も一緒に行きたがったが、流石に大事な話のようなので今回は遠慮させる。
 結局、横島は千鶴とココネだけを連れて、エヴァの居るテーブルへと向かう。この場合、ココネだけは特別だ。現在、シャークティも美空も居ないため、アスナ達も含めて初対面の人に囲まれた彼女には、横島と一緒に居る以外の選択肢が無いのである。ココネを抱く横島と、それに寄り添う千鶴。三人を並べてみると、子連れの若夫婦に見えなくもない。言い方を変えれば千鶴が子持ちに見えると言う事だが、それについては触れない方が賢明であろう。
 また、楓の姿が見えたので風香と史伽の二人は、彼女のところに行ってしまう。こうして人数が八人まで減ったので、アスナ、古菲、木乃香、刹那の四人と、裕奈、夕映、高音、愛衣の四人ずつに別れて隣同士のテーブルに座る事になった。


「来たか、横島。どうやらオマケがいるようだが、そいつも今日から住人な訳だし、まぁ良いだろう。そこに座れ」
 エヴァのテーブルには、千鶴のルームメイトである、あやかと夏美の姿があった。そして茶々丸はいつも通りにエヴァの後ろに控えている。もう一人の従者であるチャチャゼロはと言うと、こちらは妹分のさよが気になるのか、別のテーブルである。
 呼ばれた横島達だが、エヴァが何を言いたいのかは、おおよそ察しが付いていた。明日にも学校に行けるぐらいまで回復した千鶴が、これからどうするのかについてだ。
 言うなれば、これまではレーベンスシュルト城に「入院」していた状態と言えるだろう。今の千鶴は、霊力の制御を身に着けなければならないと言う事は分かっているが、その後については何も決めておらず、依然としてその立場は宙ぶらりんのままであった。
「那波千鶴、貴様はそいつらが経絡を開かれるのを見てきたのだろう?」
「え、ええ……」
「なんで、お前がそれを知ってんだ?」
「たわけ。この中であれだけ大きな力を使えば、何事かと調べるに決まってるだろうが」
 その場に居なかったエヴァが何故知っているのかと問い掛けると、彼女は横島の霊力に気付いて、管理用の水晶球で確認した事を教えてくれた。特に高音の経絡を開くのに相当量の霊力を使ったので、エヴァもいきなり何事かと驚いたのだろう。
「それはともかく、貴様の前には二つの道がある。一つは、女子寮からここに通いながら霊力の制御を学ぶ事。もう一つは、ここに移り住んで霊力の制御を学ぶ事だ。どう違うかは、言わずとも分かるな?」
 エヴァの確認に、千鶴はコクリと頷いた。
 二つの選択肢は、どちらを選ぼうとも霊力の制御を学ぶ事には変わりはない。千鶴はチラリと隣に座る横島を見る。彼は膝の上に乗せたココネの頭を撫でており、なんとも微笑ましい光景だ。
 どちらにせよ千鶴に霊力の制御を教えるのは横島となる。つまり、問題となるのはこの横島と言う男との関わり方だ。彼もレーベンスシュルト城に住んでいるので、ここに移り住むとなれば、それだけ横島と深く関わっていく事になるだろう。千鶴に求められている選択、それはGSを中心とするオカルト業界に足を踏み入れるか否かである。
「……忠夫さん、ちょっと聞きたいんですけど」
「なんだ?」
「私って霊力強いんですよね?」
「そうだな。木乃香ちゃん程じゃないけど、今の時点で一端のGS並には強いぞ」
 千鶴の霊力は、木乃香には劣るが、それ以外の面々と比べれば別格と言える程に強かった。今日、横島は高音達の霊力の強さを知る事が出来たが、マイトの高さに関しては千鶴の方が上だと判断している。
「でも、私って戦いに向いているとは思えないんです」
 だが、霊力の強さだけで全てが決まる訳ではない。確かに、千鶴は気丈な少女だ。横島などは、むしろ叱られたいとさえ思う。しかし、だからと言って戦いに向いているのかと問われれば話は別である。母性溢れる彼女は、お世辞にも戦いに向いた性格だとは言えないだろう。
「それに、私は夕映さんのように知識がある訳でもありません」
 千鶴の学校での成績は、3−Aの中でも上位の方になる。最近昼休みに行われている勉強会では、教師役を務める程だ。だが、夕映のようにオカルトに関する専門知識を持っている訳ではない。
「忠夫さん……」
「………」
 横島の方に向き直る千鶴。その表情は真剣そのものだ。横島もまた表情を引き締めて千鶴の方に向き直り、彼女の言葉に耳を傾ける。

「こんな私にも、オカルト業界で出来る事はあるのでしょうか?」

 自分に何が出来るのか。そもそも自分は一体どうしたいのか。
 いくらその答えを見出そうとしても、千鶴には肝心要たるそれを判断するためのオカルト業界に関する知識が全く足りていない。
「答えてください、忠夫さん」
 これから先、横島に深く関わっていくかを判断するためにも、千鶴はこの問いに対し、横島が如何なる答えを出すかを聞いてみたかった。

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「う〜ん……」
 横島は、ココネの前に回した腕を組み、彼女の頭の上にアゴを乗せて考え込む。丁度、腕を組んで出来た輪の中にココネの小さな身体がすっぽりと収まる形だ。ココネは頭の上に感じる重みが気になるのか、手を挙げて横島の頬をぺたぺたと触っている。
 千鶴の問い掛けは、彼女の将来にとって大切なものだ。横島も真剣に答えなければならない。
 しばらくどう答えるべきかと頭をひねる横島だったが、彼自身もオカルト業界の全てを知っている訳ではない。結局のところ自分の経験に基づいて答えられる範囲で答えるしかない事に気付いた。
「あ〜、俺自身っつーかウチの事務所の話なんだがな」
「……はい」
 まずは自分の事務所の事から話し始める横島。千鶴は真剣な表情だ。
 膝の上のココネもGSと言うものに興味があるのか、もぞもぞと身体を動かし、横島の顔を見詰めている。
 また、テーブルを囲む他の面々は、エヴァや茶々丸も含めてそれぞれ多かれ少なかれ興味があるようだ。中でもあやかは幼馴染みであるアスナがGSを目指しているため、特に気になるらしい。
「………」
「忠夫さん?」
「そう言えば、アスナ達にはゴールデンウィーク中に少し話したけど、裕奈には話してなかったな」
 考えてみれば、事務所の方針などアスナ達にとっても重要な話だ。千鶴の問いへの答えだが、これを機にアスナ達にも話してしまおうと、急遽テーブルの周りにアスナ達が集められる。横島と一緒のテーブルに座れずにがっくり来ていたアスナが喜んだのは言うまでもない。
 テーブルに人が集まったのを見て、和美を筆頭に他にも何人かが集まってきた。和美の両肩にはそれぞれチャチャゼロとさよが乗っている。
「なんか、随分と久しぶりのような気がするの〜」
「私は毎晩のように召喚しているのですけどね」
 時間は既に夜なので、夕映は自らのアーティファクトである『土偶羅魔具羅』を喚び出していた。と言う訳で、土偶羅も一緒である。

「さて、改めて話すが……ウチの事務所はな、『人と人ならざるものの共存』をスローガンに掲げているんだ。そのまんまじゃないけど、似たような話はアスナ達にはしたよな?」
 横島の問い掛けに、アスナ、古菲、夕映の三人が頷いた。彼女達の脳裏に浮かんだのは、二日目に出会ったタヌキの家族だ。
「地方の仕事だと、土地絡みのトラブルも多くてな。いざ調べてみると、元々そこに棲んでた妖怪を、人間の地主が追い出そうとしていたって話も珍しくない。こう言うのは除霊助手の頃にも何度かあったな」
「はぁ……」
 要領を得ないのか、千鶴は生返事を返した。土地絡みのトラブルと言われてもピンと来ないのかも知れない。
 そこで横島はもっと身近な例でたとえ話をする事にした。
「んぢゃ、3−Aの教室に地縛霊がいるんで除霊してくださいって話が出たらどうする?」
 和美の肩の上で、さよがビクリと身を震わせた。今は人形の身体を得て地縛霊ではなくなったが、言うまでもなく彼女の事だ。
「そんな……さよちゃんは良い子です。除霊する必要なんてありません!」
「で、でも、それを判断するのってそこの土地の持ち主、この場合は学園長なんだよ。ほら、たとえ話だから落ち着いて、ね?」
 さよを想い、真剣に怒る千鶴。横島はたじろいて視線を逸らしながらも、彼女を宥める。やはり、千鶴に詰め寄られると弱いようだ。
「まぁ、実際さよちゃんは可愛いもんな。たとえが悪かったか」
 実際、横島自身もさよを除霊しなければならないと考えてはいない。茶々丸の責めるような哀しげな視線と、チャチャゼロの獲物を見るような剣呑な視線が様々な意味で痛いので、横島は慌てて別の例を考えた。
「それじゃ、この例で考えてみてくれ。ある家で霊障があったとする。不気味だから除霊してくれって依頼されて調べてみたら、その霊は特に悪さをするような霊じゃなかった」
 ここまで聞いて周りで聞いている面々は、悪さをしないならば良いではないかと考えた。さよだって似たようなものだ。
 だが、次の一言で頭をハンマーで殴られたかのような大きな衝撃を受ける事になる。

「不気味だって怯えてる依頼者に『悪さしないんでこのまま幽霊と一緒に暮らしてください』って言えるか?」

 呆然として皆が答えられない中で、エヴァが「無理だな」と一言で切って捨てた。
 幽霊の存在に怯える依頼人に危険はありませんと言ったところで信じてはもらえないだろう。横島除霊事務所が『人と人ならざるものの共存』と言うスローガンを掲げていると言う事は、現実にそれが実現出来ていないと言う事でもある。
「ちなみに、横島さんはそのような場合どうするですか?」
「う〜ん、納得済みで成仏してもらうか、別の場所に移ってもらうかかなぁ」
「あ、そうか。そう言う時のための『愛子組』なんですね」
 横島も名を連ねている『愛子組』と言うグループには、行き場の無い妖怪達を受け容れる『妖怪保護区』が存在する。例のタヌキの親子もそこに引き取られて行った。
 和美の肩からさよが横島の方へと飛び移る。飛距離が足りずにココネが咄嗟にそれを受け止めた。
「うぅ、私が皆さんと一緒に居るのはよくない事なんでしょうか〜?」
 ココネに抱き抱えられたさよは、涙目で横島に問い掛けた。可愛らしいさよ人形を手にしたココネは、心なしか目を輝かせていたりする。
「そんな事ないぞ。ダメだったら、俺はさよちゃんの保護者やってない」
「へ? 私の保護者って横島さんだったんですか?」
 意外な返事に目を丸くするさよ。幽霊や妖怪等を危険は無いとして祓わず、誰かが身元引受人になると言うケースは、少なからず存在する。その立場を保証するのはGS協会であり、身元引受人になれるのは、GS協会が認定するGSのみである。『GS資格』の正式名称は『対心霊現象特殊作業免許』、除霊するばかりがGSの仕事ではないのだ。
 この場合、幽霊相坂さよの身元引受人が、GSの横島忠夫と言う事になる。
「だから、さよちゃんはGS協会にも認められている幽霊って訳だな」
「でも、それじゃ何か問題があったりしたら横島さんの責任になるんじゃ……? 私が預かってていいの?」
「そこはまぁ、和美ちゃんを信用してるって事で。て言うか、さよちゃんが問題起こすとこなんか想像も出来んわ」
「あ〜……」
「ケケケ、確カニナ」
 現在、さよは和美の部屋で世話になっている。本来ならば、横島が面倒を見るべきなのだろう。しかし、当時の彼は麻帆男寮に住んでいたため、男の園にさよを連れて帰る事は出来なかったのだ。
 レーベンスシュルト城に移り住んだ今も、どうせなら友達と一緒の方が良いだろうとそのままにしている。
「おとうさぁ〜〜〜ん!」
 感極まったさよが、泣きながら横島の顔に飛び付いた。「保護者」と言う言葉を、「身元引受人」ではなく「親」と解釈したようだ。
「まぁ、あれだ。これが上手く共存出来てる一つのケースと言う事で」
 そして、さよが大の字に張り付いたままの顔で、横島は千鶴へと向き直る。スカートの裾の向う側から僅かに覗いている口はキリッと引き締まっているのだが、それが却って滑稽に見えた。
「エヴァちゃんや刹那ちゃんもですか?」
「ポチ先輩に小太郎もだな。あと、カモとか桜子ちゃんとこの猫妖精連中も。茶々丸はどうなんだろうな? このカテゴリに入れていいもんか」
「私には人工魂が使われていますので、構わないかと」
 こうして改めて考えてみると、3−Aは本当に人ならざるものが多い。そんな者達をまとめて受け容れている3−Aの少女達は、横島にとってある種の理想だと言えるだろう。彼が和美を信用している理由の一端はここにあった。

「この共存の考え、千鶴ちゃんはどう思う?」
「その、素敵な考えだと思います。でも、難しいんでしょうね……」
 身近な例で考えるとよく分かる。もし、エヴァの正体やさよの存在を隣のクラスの少女達に明かした場合、彼女達はどう反応するだろうかと。きっと全ての人間が3−Aのように受け容れる事は出来ないだろう。横島が掲げるスローガンは、それだけ難しいものなのだ。それは千鶴にも理解出来た。
「………」
 さよを引き剥がし、肩の上に乗せる横島の顔を、どこか眩しそうに見詰める千鶴。横島の掲げるスローガンは素晴らしいものだと思う。千鶴には考えも付かなかった世界だ。
 しかし、同時に難しく、到達するための道は険しいものになるとも思える。なんとか横島の手助けが出来ないものか。そう考えるのだが、千鶴には何をすれば良いのかすらも分からなかった。
 そこで千鶴は、思い切ってストレートに尋ねてみる事にする。
「あの、私にも何かお手伝い出来る事はないでしょうか?」
「……………さぁ? 分からん」
 しかし、横島から返ってきた答えは、千鶴の期待とは程遠いものであった。
「た・だ・お・さ・ん?」
「いや、怒らないで、笑って笑って! 仕方ないだろ! 俺だって何したら良いか分からなくて、手探りでやってるとこなんだからっ!」
「そ、そうなんですか……」
 実際、横島自身もスローガンを達成するためにどうすれば良いのか分かっている訳ではない。今の彼に出来る事は、目の前に手を差し伸べられそうな事があれば差し伸べ、人と人ならざるもの達の間に厳然と存在する「力の格差」を少しでも埋めるために、アスナ達のような後輩となる新人を育てる事ぐらいである。
「横島さん! 私もお手伝いしますっ!」
「ウチもや。むつかしい事はよう分からんけど、みんながせっちゃんと仲良う出来るようにするって事やな!」
「魔法界の話聞いてると、今の人間と魔法使いも似たようなとこあるんだよねぇ。兄ちゃん、一緒に頑張ろうねっ!」
 アスナ、木乃香、裕奈が次々に横島のやろうとしている事を手伝うと申し出てきた。
「どうせ強いヤツと戦うなら、一緒に切磋琢磨したいアルな」
 古菲らの言葉を聞き、夕映の腕の中の土偶羅が首を回転させて主を見上げる。
「お主はどうなんじゃ?」
「手を貸すのは当然じゃないですか。私は今、横島さんの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』である事に喜びを感じているです」
「ぅ私達もお手伝いするよーッ
 古菲、夕映に続き、ノリの良い3−Aの面々も名乗りを上げた。3−Aの少女達はGSを目指している訳ではないので直接手伝う事は出来ないが、クラスメイトのさよ達に向けていた視線を、もっと広い世界に向ける事は出来る。
「ああ、でも、話が通じるけど弱い人間を見縊ってるって連中もいるからな。何でもかんでも首突っ込んじゃダメだぞ。何かあったら、最寄りの頼りになる人に相談するように」
 あまりにもなテンションの高さに不安になった横島は、少女達を注意して窘める。
「横島さんに?」
「真名ちゃんでも、楓ちゃんでも、超えもんでもOKだ。学園長に連絡するのもいいな。俺への相談ならデートしながら受けてあげるぞッ!」
「やだー、横島さんったらー♪」
 古菲と刹那の名前が出ないのは、横島に相談すれば大体彼女たちの耳にも入るし、その逆もまたしかりだからだ。
 横島の言いたい事は大体理解した。ならば、自分はどうすれば良いのか。千鶴は再び横島に問い掛ける。
「あの、それじゃ、今の私に出来る事は何も無いのでしょうか?」
「う〜ん、まずは霊力をちゃんと使えるようになる事だな。さっきも言ったけど、そいつを退治出来るぐらいに強くないと話も聞いてくれないってのは、よくある話らしいぞ」
「なるほど……」
 その答えを聞いて、うんうんと頷く千鶴。
 結局、オカルト業界において自分に出来る事はあるのかと言う問いに対する答えは得られなかった。だが、それも当然である事が理解出来た。何故なら、今の千鶴は霊力に目覚めたばかりで、自分の力を使いこなす事も出来ないのだから。
 霊力の使い方を学ぶ目的はまだ漠然としているが、心構えは何か変わったような気がする。千鶴は先程よりもすっきりした表情で微笑むと、強い眼差しと共にエヴァの方へと向き直った。
「答えは出たようだな」
「ハイ。これからは、この城の住人としてよろしくお願いします」
 千鶴はペコリと頭を下げる。「目覚めてしまったから仕方なく」ではなく「何かを成し遂げるため」に霊力を使えるようになりたい。そして、横島の目指す「人と人ならざるものの共存」をより深く知るために、千鶴はレーベンスシュルト城の住人となる事を決意した。

「では、次は私ですわ」
「あら、あやかも何かあるの?」
 続いて身を乗り出したのはあやか。千鶴がレーベンスシュルト城に住むと言う事は、ルームメイトである彼女から見れば、千鶴が部屋から出て行くと言う事だ。それを踏まえて言いたい事があるらしい。
「横島さん。聞けばアスナさん達は、私達が寮に帰った後の夜の時間は空いているそうですね」
「ん、ああ、そうだな。これから警備の仕事も増えるし、ほとんど空いてる事になるんじゃないか?」
「つまり、アスナさん達にとって受験勉強をするのに最適な時間と言う事になりますわね」
「……ちょ、ちょっと、いいんちょ。何考えてるのよ?」
 どうも千鶴ではなく自分に関係しているらしい。そう感じたアスナは、顔を引きつらせながらあやかに問い掛ける。
「不肖、雪広あやか! アスナさんに協力するために、住み込みで家庭教師をさせていただきますわっ!!」
「なんですって!?」
 これは予想外の提案である。
 確かにあやかの言う通り、アスナは夕方の修行が終わった後は、割と自由に過ごしていた。無論、勉強はしていたが、教師役が木乃香一人だけでは、どうにも捗らない。何とかしようにも女子寮の門限があるため、城に住んでいない者達は帰っている時間であり、どうにもならないと言うのが現状であった。その現状を打破出来ると言う意味では、あやかの提案は有り難いと言えるだろう。
「一体どうしたのよ? どう言う風の吹き回し?」
「それは、アスナさんがおバカ過ぎて、このままでは時間が足りないからですわ」
「ぐっ……!」
 事実だけに言い返す事が出来ない。
「それに……」
「それに? 何よ?」
 問い詰められたあやかがチラリと視線を逸らす。何事かと彼女の視線を追ってみると、そこには小太郎と談笑するネギの姿があった。
「あ〜、そう言う事ね」
 それだけでアスナは全てを察してしまった。
 現在ネギは女子寮を出て麻帆男寮の横島が使っていた部屋に小太郎と二人で住んでいる。子供二人だけの生活だが、そこは豪徳寺達がフォローしているそうだ。そのおかげか、最近の彼はほとんど女子寮に顔を出さなくなっていた。学校と麻帆男寮以外のほとんどの時間をセーフハウスの本拠地で過ごしているのだから当然である。
 そのため、あやかが学校以外ではネギに会えない日々を過ごしていた。そんな彼女にとって、定期的にネギが近況を報告しに来るレーベンスシュルト城は、数少ないネギと会える場所である。
 雪広あやかと言う少女は、意外にも押しが弱い所がある。ネギについても自らセーフハウスの本拠地に出向けば良いのではないかと思えるが、彼女は招かれている訳でもないのに、自ら押し掛けると言う事が出来なかった。
 そんな彼女が強気になれる数少ない一人が、幼馴染みのアスナだ。ルームメイトの千鶴がレーベンスシュルト城に引っ越す。そこでアスナが困っている。ならば、自分も引っ越してアスナに手を貸そう。あやかはそんな三段論法を展開していた。
 ネギに会いたい、アスナを助けたい。今のあやかは、その一心なのだ。何ともいじらしい話である。
「私は別に構わんぞ。ただし、何か事が起きた時は私の指示に従って、この城でおとなしくしていてもらう。それが条件だ」
「それは分かっていますわ。武芸百般と言えど、私はあくまで表の人間のレベル。足手まといになって皆さんに迷惑を掛ける訳にはいきませんもの」
「分かっているなら、私から言う事は無い」
 エヴァもあっさりと認めたため、千鶴に続いてあやかもレーベンスシュルト城に引っ越す事が決定した。二人とも昼休みの勉強会では教える側に回っているので、教える側の木乃香にとっては頼もしく、教わる側のアスナ達にとっては何とも手強い援軍だと言える。

「と、ところで、夏美ちゃんはどうするの?」
「う〜ん、どうしよう? 他の人の部屋にお世話になってもいいし……」
「何を言う村上夏美。貴様も一緒にここに住めば良いではないか」
「え、いいの?」
 もう一人のルームメイト、夏美がどうしようかと考えていると、なんとエヴァの方からここに引っ越してくるよう誘ってきた。
「はっはっはっ、夏美はいつも頑張ってくれているからな。貴様ならば大歓迎だ」
「「………」」
 キラキラと輝く爽やかな笑顔で歓迎の意を表するエヴァ。胡散臭い事この上ない。
 そのらしからぬ姿にアスナと夏美は、違和感と同時に恐怖を覚えた。
 二人の反応に気付いたエヴァは、ムッと眉を顰める。ならば手を変えようと、エヴァは夏美につつつと近付き、彼女の耳元で囁く。
「横島の部屋では、なかなか楽しそうだったではないか」
 ビクンッと大きく震える肩。その一言に夏美は如実に反応した。
「な、なん、なんで……?」
「さて、どうしてだろうな?」
 ニヤリと唇の端を吊り上げて笑うエヴァ。正に悪の顔である。
「ああああ、もうダメぇーーーっ!」
「え? え?」
 横島の部屋で、彼が脱ぎ散らかした服に顔を埋めてその匂いを堪能していた。その姿がエヴァに見られてしまったのだ。夏美の顔からどっと冷や汗が噴き出る。
 そのまま夏美は椅子から崩れ落ちてしまった。一方でアスナには何が起きたのかさっぱり理解出来ない。
 ニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めていたエヴァは、そんな夏美の肩をポンと叩いた。
「何を勘違いしている。私は褒めているのだぞ。なかなか見所があるではないか」
「……へ?」
「さっきも言ったが、夏美も一緒にレーベンスシュルト城に住むが良い。いつも頑張ってくれる貴様に、特別に褒美をやろうじゃないか」
「ほ、ほおび……?」
 夏美は既に頭が付いて行ってないようだ。目はぐるぐると回り、頭を抱えている。
「私も、夏美ちゃんが一緒だと嬉しいわね」
「そうですわね。私も夏美が一緒に来てくれると嬉しいわ」
「ああ、いいんちょの方にも言った条件は、貴様の場合も同じだぞ。非常時は城の中でおとなしくしていろよ?」
「う、うん、分かった。それじゃ、よろしくお願いします……?」
「ウム、歓迎するぞ」
 結局、夏美はエヴァの申し出を受ける事にした。彼女の言う褒美も気になるが、それ以上に、掃除だけでも良いから、横島のために何か役に立ちたいと思ったのだ。
 大して役に立てるとは思えないため、流石に自分から申し出るのは気が引けるが、エヴァから誘ってくれると言うのならば、渡りに船である。
 こうして、千鶴、あやかに続き、夏美もまたレーベンスシュルト城の住人となった。

 わいわいと賑やかなアスナ達を眺めている横島。その肩の上で、同じくアスナ達を見ていたさよは、くいっ、くいっと彼の髪を引っ張って注意を引くと、にっこりと微笑んで話し掛ける。
「ねぇねぇ、おとうさん」
「ん、どうした?」
「私も、和美さんのとこばかりじゃなくて、たまには家に帰ってきますね」
 この場合、「家」と言うのは横島の下と言う事だろう。さよはえへへと笑って横島の頭に抱き着く。「友達」ではなく「家族」が出来た事が嬉しくてたまらないようだ。
 横島がさよの「保護者」と言うのは、正確には「身元引受人」の事であり、「親代わり」と言う意味ではないのだが、本当に嬉しそうなさよの笑顔を見ていると、どうにも訂正する事が出来なかった。
「おとうさ〜ん♪」
 嘘ならぬ、勘違いから出た真と言うべきか。結局、横島はさよの事を義娘として受け容れる事になった。
「家族なんだから『ちゃん』付けはダメですよ〜?」
「はいはい、さよ。あんまり和美ちゃん達に迷惑掛けちゃダメだぞ」
「大丈夫ですよぅ。私、いい子にしてますからっ!」
 えへんと元気良く胸を張るさよ。その笑顔のためならば、父親呼ばわりも悪くないと、横島はさよの頭を撫でてやるのだった。

「よう、おとうさん!」
「おとうさ〜ん、私とも遊んでくだサ〜イ」
「……おとうさん」
「ケケケ、オトウサン。小遣イクレヤ」
 後日、すらむぃ、あめ子、ぷりんに、チャチャゼロまでもが「おとうさん」と呼んできたのは余談である。
 どうやら、さよを含む彼女達の間で流行ってしまったらしい。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城は、原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

 シスター・シャークティ、及びココネ・ファティマ・ロザに関する各種設定。
 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。

 『GS資格』の正式名称が『対心霊現象特殊作業免許』と言うのは原作通りです。
 ただし、除霊するばかりがGSの仕事でないと言うのは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。ご了承下さい。

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